最近,またいろいろな本を読んでいるので,これからは適当に読んだ本の感想を書き記していこうかなと思っています。記念すべき第一冊は,土屋元判事(現在彼は教授かつ弁護士なので,土屋先生と呼ぶのが正しそうですが)が執筆された本書からです。


民事裁判過程論


 著者はロースクールが始まる前から京都大学で非常勤講師となり,その後司法研修所教官,東京地裁部総括などをつとめられたあと,東京大学教授になられています。『ステップアップ事実認定』の編著者としても有名ですね。本書は著者が京都大学及び東京大学で行っていた民事裁判実務を教える講義を敷衍したものです。

 目次はこんな感じです。

第一章 民事裁判について

第二章 民事裁判の実体形成過程

第三章 民事判断の基礎的構造

第四章 民事裁判の特質と陥穽

第五章 事実認定

第六章 判例

第七章 裁判官の法的判断形成過程



 本書は著者の民事裁判官としての考えをストレートに記したものとなっていて,一裁判官が「民事裁判」というものに対してどのような姿勢で挑んでいるか,がおぼろげながらみえる内容になっていると思います。わずか200頁余りの薄い本ではありますが,内容は含蓄にあふれており,大変面白く読み通すことができました。


 読んでみて,土屋先生の「裁判」に対する真摯な姿勢のようなものを感じ,思わず襟を正してしまいました。裁判に人生を捧げた一人の裁判官の考えを惜しみなく披露した本として,広く読まれてほしい一冊だなと思います。



 本書は「民事裁判」というものについて土屋先生が考えていることを,様々な参考文献を引用しつつ述べるものとなっていて,まず何よりも引用されている文献の広さに驚きました。古今東西の有名な裁判官の論考をはじめとして,法律学,法哲学,社会学,心理学などの人文社会学の文献を縦横無尽に引用しながら,各章のトピックについて考察がなされています。
 田中成明やCardozoがお好きなんだな,ということもわかったりして,引用文献を眺めながら読んでも面白く読めるかなと思います。

 要件事実について土屋先生は要件事実と主要事実とを区別される見解に立たれるのですね。僕も,なんとなくですが分けた方がわかりやすいのではないかなとぼんやり思っていたりします。


 全部の章が面白かったのですが,最後の3章「事実認定」「判例」「裁判官の法的判断形成過程」が特に読み応えがあったかなあと思います。
 それぞれ,私たちが暗黙的に共有しているような漠然としたものを,彼の経験と様々な文献を駆使しつつ,丁寧に言語化しようとしてくださっており,たしかに!と膝を打つところもあれば,仰るとおりだと頷くところもありました。言われれば当たり前のようなことも多くあったように感じましたが,言語化することが難しいものを言語化できている証左ではないかなと思います。


 つらつらと感想を書き連ねてきましたが,ページ数は少ない本ですので,気軽に手にとって読めるかなと思います。本書それ自体を楽しんだあとに,本書に挙げられている他の文献にあたってみるのもいいのではないでしょうか。