修習で読むといいらしい書籍紹介(備忘メモ)、刑事編です。
これは民事系にも当てはまることなのですが、正直、もらえる白表紙をまず読むべきな気もします(笑)。

刑事は刑弁プロパーな書籍以外、刑弁/刑裁/検察と分けにくい感じがします。とりあえず項目分けはしていますが、あまり厳密なものではありません。
実務的に「良い」本は、他にも大量にあるかと思いますので、漏れがあったり、他にもおすすめの本があったら是非ご教授ください。
・『犯罪事実記載の実務』が旧版になっていたので、追記しました(5月2日)。
・『刑裁修習読本』『難解な法律概念と裁判員裁判』忘れてました。あと、刑事事実認定につき説明を少しいじりました(5月4日)。
・『刑事事実認定入門』改訂情報,「刑事事実認定重要事例研究ノート」を追記し、その他説明を少しいじりました(7月14日)。
・『刑事弁護の基礎知識』を追記しました(1月7日)。



【総論】




条解刑法 』[第3版]
条解刑事訴訟法 』[第4版]

→個人で持っていなくても、多分どこにでも置いてあるので、買わなくてもいいのではという説もあります。が、持っておいた方がいいと色々な人から言われます。高いわけですが。
 どちらも補遺が出ています。刑事訴訟法は割と古くなっていますが、改訂はもう少し先のようなので、買っても損はしないのかなと思います。



【刑事事実認定】

一番勉強すべき分野なので、やはり、本も多いですね。


司法研修所刑事裁判教官室『刑事裁判修習読本』

→まずこれを挙げるのを忘れていました。民事事実認定における『民事訴訟における事実認定』のような位置づけでしょうか。刑事事実認定を中心に,刑事裁判手続きも含め,刑事裁判に必要な知識が一冊につまった書籍です。
 「サイ太」と「ケイ子」が出てくるのもこの本です。
 とりあえず刑事実務(特に刑事裁判)で必要なことが詰まっているので,本書は熟読すべきだと思います。検察や刑弁でも,刑事事実認定スキルは必須なので,クールにかかわらず携帯したい一冊です。








石井一正『刑事事実認定入門〔第3版〕  

著者は『 刑事実務証拠法 』でも有名な元判事。
 刑事事実認定につき、判例を引きつつ、ざっと全体像がわかるので、「入門」として良いと思います。著者は証拠法の大変有名な本の著者でもあるせいか、「刑事事実認定」のタイトルにもかかわらず証拠法にある程度のページが割かれています。
 他のブログにも指摘がありますが(
「刑事事実認定入門」への提言 )、本の割には内容は少し薄めかなとも思います。読んでもいいが、この本でなければならないということもないと思います。
 というのが、第2版までの感想でしたが、最近、第3版が出ました。値段が500円高くなっており、内容も厚くなっています。
 詳しい感想は近日中に書こうと思っていますが、とりあえず紹介まで。




 刑事事実認定についてざっと知りたい方は、この二本の論文から入ると良いのではないかなと思っています。↓



下津健司=江口和伸「事実認定」
(法学教室386号133頁)


→法学教室に2012年から連載された「刑事裁判実務講座」の中の一つです。著者のお二人は刑事裁判官で、どちらも司法研修所教官経験者です(江口判事は現教官)。
 法曹會から出ている『刑事第一審公判手続の概要』の参考記録を題材にして、刑事事実認定の全体像、証拠構造に従った事実認定の手法などを丁寧に解説しています。
 おそらく、この論文が出るまでは、次に書く藤井敏明「刑事事実認定入門」が決定版だったのだと思いますが、現在は、まずこちらを読むほうがいいのではないかと思います。とてもわかりやすく、かつ内容の濃い論考だと思います。

 なお、この法学教室連載は書籍化されたので、全体を読みたい方は読んでみるとよいかもしれません。『
民事裁判実務の基礎/刑事裁判実務の基礎




藤井敏明「刑事事実認定入門」
(自由と正義51巻6号66頁)

→短い論文ですが、刑事事実認定について、証拠構造を把握し、その証拠構造に沿って考えていくことを説明しています。2000年のもので、少し古くなっていますが、現在も得るものは多いかと思います。








小林充=植村立郎[編]
刑事事実認定重要判決50選(上)
刑事事実認定重要判決50選(下) 』[第2版]

→現在の重要文献だと、間違いなくこの二冊になろうかと思います。刑法・刑事訴訟法の両方のトピックについて、重要な裁判例を題材に、実定法の解釈も交えながら、事実認定のポイントについて掘り下げた論文が50本、収められています。
 実定法の解釈の勉強にもなって、割と一石二鳥な本ですが、その代わり内容は高度です。トピックごとに分かれているので、勉強したいところをつまみ食いする感じになろうかと思います。

 第2版になって、かなり分厚くなりました。新しい判例や学説の動きまできちんとフォローされており(法曹会の書籍や,刑事法分野の雑誌掲載論文など)、参考文献を探す際にも大変重宝します。持っておくべき二冊かなと思います。





       
小林充=香城敏麿[編] 
刑事事実認定―裁判例の総合的研究 (上)   
刑事事実認定―裁判例の総合的研究 (下)   

→『50選』が出る前の、刑事事実認定についての論文集です。『50選』に比べ、それぞれの論文が長いことが特徴として挙げられます。それぞれが長いため、トピックとしては『50選』よりも少ないですが、その代わり、とても深い分析がされています。裁判例をたくさん引用し、分類するスタイルの論文が多いかと思います。

 出版年度は古いですが、どの論考も大変示唆に富み、素晴らしいものばかりです。人によっては、『50選』があるのにもかかわらず敢えてこちらを引用する人もいます。古いからといって敬遠せずに、是非一読すべきかと思います。刑事事実認定をしっかり勉強したいのであれば、避けては通れない二冊だと思います。




法曹会『難解な法律概念と裁判員裁判』

→佐伯仁志・酒巻匡両教授と,村瀬均・河本雅也・三村三緒判事,駒田秀和判事補の手による共同研究の成果です。裁判員に向けて,今までジャーゴンとして複雑な法解釈がなされていた概念につき,実際には何を意味していたのかをわかりやすく明らかにすることを目的としています。
 本書は「殺意」「正当防衛」「責任能力」「共謀共同正犯」「少年法55条の保護処分相当性」の5つにつき,それら法律概念の意味するところが丁寧に解説されています。

 事実認定は、その立証命題となるべき実体法の解釈がしっかりしていなければ、とてもできるものではありません。本書は、刑事実体法の解釈について、「本質を見抜く」ために何が必要であるか、が記されており、本書にある5つの概念を覚えるだけで済ませず、本書の考え方を他の概念にも応用していくことが必要になると思っています。
 法曹会の書籍ですし,刑事事実認定を真剣に学ぶのであれば避けては通れない一冊だと思います。





「刑事事実認定重要事例研究ノート」
(「警察学論集」67巻1号~、現在連載中)

→刑事裁判官の執筆による、刑事事実認定についての論文連載です。コンセプトは、おそらく『50選』と同じ感じで、それぞれのテーマについて、裁判例を題材にしながら、実体法の解釈及び事実認定のポイントについてわかりやすく解説がされています。
 執筆陣は『50選』とかぶっているところもあり、その豪華さから、内容にも信頼が置けます。実際、論文は示唆に富む記述が多く、大変勉強になります。
 現在連載中のため、網羅的とまではいきませんが、注目すべき論文だと思います。




   
木谷明[編]『刑事事実認定の基本問題  』[第2版] 

→木谷元判事は、本書以外にも、たくさん刑事事実認定についての本を出版されていますが、今紹介してきた流れからすると、本書かなと思います。
 刑事事実認定のトピックごとの、様々な実務家の方が書いた論文集であることは『50選』『刑事事実認定』と変わりません。『50選』より一つ一つが長く、ただ内容はわかりやすいものが多いのが特徴かなと思います。






菊地幸夫
LIVE刑事事実認定特訓講座
続・LIVE刑事事実認定特訓講座

→元司法研修所刑弁教官による、辰巳での講義録です。新司法試験対策という名目ですが、内容は二回試験的なレベルにも踏み込んでいます。
 刑事事実認定の教材は、全体的に難しいものが多いのですが、そんな中、『和光だより』と共に、学習者目線で優しく解説してくれる貴重な二冊だと思います。
 ただ、やはり「司法試験対策」という枠の中での解説であるため、優先度でいえば上に紹介した各書より若干落ちるかなといったところです。




大木孝『和光だより 刑事弁護教官奮闘記

→元司法研修所刑弁教官が、教官時代に投稿したメーリングリストをまとめたもの。教官ご自身の経験談をつづった日記のようなものがあったり、授業の解説があったりします。
 内容は大変フランクで読みやすく、しかし内容は勉強になるという一石二鳥本です。刑事事実認定とのからみでいえば、一般的な文献の「行間を埋める」ことに重点が置かれています。論理の飛躍を許さない説明と、(やりすぎと思うくらい)丁寧な図で、刑事事実認定の思考方法や思考順序が解説されています。
 単純に読み物としても面白いので、読んでみてはいかがでしょうか。刑事弁護人のスピリットみたいなものも感じられて、興味深く読みました。







【その他刑裁・検察】



松尾浩也=岩瀬徹[編]
実例刑事訴訟法〈1〉
実例刑事訴訟法〈2〉
実例刑事訴訟法〈3〉

→刑事訴訟法の論文集です。修習中に本書を読んで勉強しておくべきだと、よく言われます。3冊もあってしかも値段が高いので買うのは結構大変なんですが・・・
 本書の前身が平野龍一=松尾浩也『実例刑事訴訟法』で、この本のコンセプトそのままに、内容をアップデートしたのが本書になります。




新関雅夫ほか
増補 令状基本問題〈上〉
令状基本問題〈下〉

→捜査法全体についての論文集。同じコンセプトの最近の本として『令状に関する理論と実務』(別冊判例タイムズ34号、35号)がありますが、捜査法の基本文献といえばやはり本書になろうかと思います。
 長い間絶版?だったようですが、最近また増刷された模様です。




末永英夫ほか『犯罪事実記載の実務 刑法犯 』[6訂版]

→起訴状に記載すべき公訴事実の例を集めた本です。簡単な事実記載例集は、「刑事判決起案の手引」にも載っているのですが、より詳しく、網羅的なものといえば本書になるのだと思います。




【量刑実務と量刑理論】

量刑は、司法試験までは全く触れることのない分野ですが、実際には、法解釈学と同じくらい重要な分野です。刑事裁判で判決を書くときだけでなく、検察官として求刑するとき、弁護人として弁論するときに、量刑理論を知っておくことは必要なことだと思います。


司法研修所編『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』

→平成24年に出版されました。量刑理論についての決定版と言ってよいと思います。量刑について、根本的なところ(量刑の本質論)から、具体的な事例における判断まで解説されています。量刑理論について学びたいのであれば、本書は必須だと思います。




原田國男『量刑判断の実際 』[第3版]

→無罪判決を多く出したことでも有名な原田國男元判事による量刑実務の研究です。
 量刑実務を知るには本書、とよく言われます。現在の最新版は3版ですが、初版が最も記述的で、初版の方を評価する方もいらっしゃるようです。




【刑事弁護】



季刊刑事弁護増刊『刑事弁護ビギナーズver.2

→刑事弁護を学ぶ際の決定版です。著名な刑事弁護人へのインタビューから始まり、接見から公判、受刑まで、刑事弁護人としてやるべきことが一通り解説されています。
 付属DVDには、書式集も入っており、とても便利です。まずは本書からかなと思います。






→法学教室における同名の連載をもとにした共著です。法学教室の連載に比べ、かなり大幅に加筆がなされており、同連載を読んでいた人も「買い」の一冊です。
 内容は素晴らしいの一言につきます。本書全体は「基本編」「ケース編」「量刑についての弁護活動」「弁護活動の限界」の4部に分けられています。全体として、総論→各論という順番で解説されているところもわかりやすいのですが、本書に特徴的なのは後半の2部だと思います。他の本では、公訴事実レベルでの争い方に焦点が当てられていることが多かったと思いますが、本書は、しっかりと、量刑弁護活動にもスポットライトを当てて解説しています。実際、実務に出てから圧倒的に扱うのは量刑弁護である以上、量刑についての弁護活動を勉強しないことはあり得ないでしょう。その意味でも、本書はある意味で画期的な一冊であるといえると思います。
 内容的には勉強になるの一言ですが、総論が割合多いことから、是非、修習生のうちに目を通しておくべき一冊だと思います。神山先生が現刑弁教官であることからわかるように、本書は現在の司法研修所教官室の見解に沿ったものとなっており、研修所で教わることがそのまま書いてある本といってもいいくらいです。
 もし、今の修習生に一冊本をすすめるのであれば、現段階では、本書を選ぶと思います。そういう一冊です。







宮村啓太『事例に学ぶ刑事弁護入門―弁護方針完結の思考と実務

→著名な刑事弁護人によるケーススタディ。4つの事例で、自白事件/否認事件、起訴前弁護/公判弁護の4パターンを学びます。事例に沿って注意すべきポイントなどが、書式例も交えて解説されるので、とても分かりやすいです。別に、Q&Aもついており、本書を読んで得られるものは多くあると思います。




実践! 刑事証人尋問技術 — 事例から学ぶ尋問のダイヤモンドルール
山室恵[編]『刑事尋問技術 』[改訂版]

→刑事の証人尋問にスポットを当てた本です。刑事裁判における尋問技術は、そのまま民事裁判にも生きると思うので、尋問技術の勉強はどの道に行くにしろやるべきなんだろうなと思います。




日本弁護士連合会[編]『法廷弁護技術 』[第2版]

→著名な刑事弁護人が、共通の設例(殺人未遂被告事件・否認)を前提に、刑事公判のそれぞれの段階について解説をしているもの。裁判員裁判を踏まえています。
淡泊なタイトルやデザインとは裏腹に、内容はとても刺激的で、面白いです。法廷弁論の研究が進んでいるアメリカの議論もよく参照しながらの解説となっています。
特に、高野弁護士の尋問の章は、大変興味深く拝読しました。単純に読み物としても面白いので、読んでみてはどうでしょうか。




公判前整理手続を活かす(GENJIN刑事弁護シリーズ05) 』[第2版]

→公判前整理手続について詳しく解説した本です。裁判員裁判における手続について詳しく知りたければ、まずこの本かなと思います。