【演習書】

判例集の冒頭で偉そうに長々と述べてしまったので(汗)、ここでは省略ということで。
行政法において問題演習が欠かせないことは、間違いないと思います。

・橋本博之『行政法解釈の基礎』を追記し、判例集と記事を分けました(12月23日)。
・大島義則『行政法ガール』を追記しました(8月20日)。





曽和俊文・金子正史『事例研究 行政法』[第2版]




事例研究 行政法 第2版

評価:★★★★
使い方:自習にもゼミにも

感想
→言わずと知れた、行政法演習書の決定版。第一部・第二部・第三部と問題が難しくなっていき、第三部は解説無しです。僕は時間がないときは第一部(10問)のみに集中していました。解答例こそ無いものの、行政法の思考方法についてとてもわかりやすい解説がついており、これだけでも行政法はいいのではないかと思うレベルです。
 ただ、結構難しいと思います。基本書を読んだだけの人がいきなりこの本を読んでもちんぷんかんぷんになる恐れがあります。基本書と本書の間をつなぐような、ちょうど良い演習書が欲しいところです。 
 
 掲載問題数はかなり多いのですが、解説が結構しっかりしていることからして、この本を使って個別法を覚えるというよりは、この本を通じて行政法的な思考方法を身につける、という使い方をすべきのように思います。この本を単なる暗記の道具としてしまうのはもったいないかなあと。そういう思考方法の「型」のようなものを身につけようと思って読み込むと、より有意義な時間を過ごせると思います。

 知り合いの行政法の先生も、「こんな本出されたら他の問題の出しようがないです」と(冗談交じりに)仰っておられましたが、先生の言う通り、問題の質はとても高いと思います。
 ただ、「答案」として書きにくい問題が結構含まれています。問題演習を通じて行政法への理解を深めることを目的としている書籍ですので、ある意味仕方のないことかもしれません。




橋本博之『行政法解釈の基礎―「仕組み」から解く』



行政法解釈の基礎: 「仕組み」から解く

評価:★★★★
一言:基本書と演習書との橋渡し本がついに

感想
→櫻井・橋本『行政法』や『行政法判例ノート』でおなじみの橋本教授の新しい著作です。一通り読んでみて、ついにこのような本が出てきてしまったか、という感想を抱きました。
 本書はタイトルの通り「行政法解釈の基礎」として、個別法の行政法的解釈方法を丁寧に説明していく内容になっています。今までは判例や『事例研究』、実際の答案などからいわば「職人芸」として見よう見まねで身につけていた「個別法解釈の方法論」を、驚くべき分かりやすさで言語化した書籍です。「職人芸」を「やってみせる」というコンセプトは『憲法ガール』等と近く、個人的には革命的(大げさですが)な書籍だと思います。

 本書は、橋本教授が〈5つの「行政法思考」〉と名付けられた方法論に沿って、一般論を説明された後、実際に彼自身が個別法の解釈をやってみせ、重要判例や司法試験の問題を題材として問題の解き方、「起案」の仕方を解説するという内容になっています。

 文章はですます調であり、実際に先生の講義を聞いているように、柔らかく頭に入ってきます。ただ、文章の読みやすさに比して内容は(一部)高度であり、腰を入れて読む必要がある箇所も多いと思います。脚注に挙げられる参考文献は学習者向けのものが多く、理論的に高度な文献を挙げるときも、大変魅力的な紹介文と共に紹介されるため、知的好奇心を大いに刺激されます。
 また、橋本教授の長い教師体験を下敷きに書かれている「ポイント」「一歩先へ」という小論考が本当に素晴らしいことも◎。この二つが本書をより一層魅力あふれるテキストにしています。

 前述の通り、「行政法思考」の一般的な説明の後に問題演習として司法試験の問題を使うので(平成18年~23年)、本書を読む前に司法試験の過去問を解いた方が学習効果が高いと思います。欲を言えば、過去問を解いてから本書を読み、さらにもう一度解き直すのが理想です(理想です…)。一般論の箇所は別としても、問題演習をいきなり読んでしまうとネタバレになってしまうので注意が必要です。

 『事例研究』はとても良い演習書だとは思うのですが、出版が少し古いこと、「書く」ためではなく「学ぶ」ための演習書であること等から、実際に「答案」を書いてみる段になると「結局どう書けばよいのか」という壁にぶつかることがそれなりにあると思います(僕はそうでした)。本書は文中に何度も「起案」という言葉が登場することからもわかるように、「実際にどう書くか」を念頭において執筆されており、実際に行政法の答案を書いて悩んできた人ほど、目から鱗が落ちる体験ができるのではないかと思います。
 訴訟類型の選択、原告適格論などの書きぶりは、最近の論者(原田『例解行政法』や鵜澤「司法試験行政法と行政法理論」法セミ702号など)も同じようなことを書かれています。ですが、それらを一人の著者が、一つの著作としてまとめたことの意味は大きいと思います。

 絶賛ばかりしていますが、あえて気になる点を挙げるとすれば、橋本教授ご自身のお考えを前面にかなり押し出している点かと思います。本書の内容は「基礎」とある通り、行政法を扱う人の中では常識的なことであり、彼の独自の考えが書かれているわけではありません。ただ、〈5つの「行政法思考」〉は橋本教授ご自身の整理方法ですので、この5つを覚えるというよりは、本書で惜しげもなく披露されている解釈のやり方を読み手も身につける、ということが目標になるかと思います。
 あとは、本書は結構薄いので、内容それ自体はそこまで深くありません。相当丁寧に説明がなされていますが、行間もやはり存在しますし、文体が読みやすい分余計に読み流してしまうかも。
 司法試験の解説も載ってはいますが、あくまでも先生の主張に資する程度の解説であって、フルの解説ではありません。司法試験プロパーの解説は、いずれ出版されるであろう『行政法ガール』を待ちたいところです。

 なお、石川教授は本書のタイトルにもある「仕組み解釈」という言葉について、塩野学説をはじめとして橋本『行政判例と仕組み解釈』、櫻井・橋本『行政法』によってこの言葉は大々的に拡散されることになった、と述べられていますが(石川健治「原告適格論のなかに人権論の夢を見ることはできるか―行政訴訟論とともに」法教383号)、「仕組み解釈」という言葉は、本書によって学生の中に定着することになると思います。

 本書は、講義を聞いたり基本書を読んだりして行政法の学習を一通り終え、いざ問題演習、という人のために執筆されたものです。本書に書かれている一般論はある意味「当たり前」のことであって、予備校等で「行政法答案の書き方」をしっかりと身につけている人にとってはもしかすると得るものが少ないかもしれません。
 ただ、司法試験本試験の解説が(不十分ではあれ)載っているだけで一読の価値はありますし、行政法は一応学んだけれど、問題がさっぱり解けないという人は、是非本書を読むことをすすめます。

 本書の帯には『事例研究』ともコラボレート、と書いてありましたが、事例研究の問題は(本文中には)一問しか引用されておらず、司法試験の解説が演習のメインです。本書中では事例研究と共に『ロースクール演習行政法』が推薦されており、ちょっと読んでみたくなります。





LEC『新・論文の森 行政法』[第2版]



司法試験予備試験 新・論文の森 行政法 <第2版>

評価:★★
一言:行政法の答案イメージをつける

感想
→最近第2版が出ました。
 論文の森シリーズの良さは、コンパクトなサイズで持ち運びしやすく、かつ収録問題はオリジナル25問+旧司法試験・予備試験(のことが多い「発展問題」)25問と充実しているところです。解説についてもきちんと権威ある参考文献が引かれており、(多少の誤字脱字や文章表現の違和感に目をつぶれば)必要十分です。少なくとも予備試験に合格するための必要最小限は本シリーズでも得られるのではないでしょうか。
 そして、参考解答例が全問題に付いているので、答案のイメージをつけることが可能です。個人的には、それが一番役に立ったかなと思います。

 ただ、参考解答例が良くも悪くも「予備校答案」といった感じで(冗長な問題提起をする、判例の規範を不十分な形で用いている、当てはめが上手く当てはめられていない、など)、そのまま真似するのは多少危険かもしれません。それと、問題が「論点」的で、深みのようなものはあまりないかなという印象を受けました。全範囲にわたり、適度な長さの事例問題が沢山載っているのが良いところです。

 行政法に関しては、下級審を含めた重要判例を下敷きにして作られた問題が多いので、若干難しめかなと思います。





大島義則『行政法ガール』




行政法ガール

評価:★★★★★
一言:「語り得ぬものを語る」試み、第二弾


感想(長いので、はじめと終わりだけでも良いです(笑)。)

→『憲法ガール』に続き、弁護士大島先生による新司法試験過去問解説の行政法バージョンです。内容は、『憲法ガール』と同じく、平成18年から25年までの8ヵ年分を小説形式で解説したものになっています。(ちなみに、著者のインタビューはこちら(弁護士ドットコム)。)

 『憲法ガール』と同じく(2回目)、新司法試験を「所詮試験だから」と妥協せずに検討しています。解答例、参考判例抜粋付き、さらに参考文献も完備しており、受験生的にはまさに「至れり尽くせり」の内容になっています(個人的には、両『ガール』参考文献は本当に勉強になりました)。巷の解説本にありがちな、「出題趣旨」「採点実感」を丸々コピーしてページ数を稼ぐようなことをしていないのも、好感が持てます。

 類似書として、橋本博之『行政法解釈の基礎』がありますが、橋本『基礎』は、新司法試験過去問の解説に大きなウェイトを置いているわけではないため、本書と合わせて読むと良いでしょう。

 本書の特徴の一つは、「ライトノベル形式」にあるわけですが、『憲法ガール』がある種典型的なライトノベルの筋書きであったのに対し、本書もまた、ある種典型的なストーリー展開になっています。ただ、本書のストーリー展開は『憲法ガール』の淡々としたものとはかなり異なっており(一言でいうと、ぶっ飛んでいます)、読んでいてツッコミを入れたくなる方も多いかもしれませんね(笑)。(あと、本書ではより一層、京都在住メフ○スト賞受賞作家で名前をローマ字にすると回文になる戯○シリーズの某作者の影響が見て取れます。)


 さて、この『行政法ガール』ですが、ネット上の他の書評では手放しでの大絶賛が多いので(全くそれらに反対するわけではありませんが)、少しだけ、(主に『憲法ガール』との対比において感じた)僕なりの留意点のようなものを書いてみようかと思います。

 司法試験の問題は基本的にとてもよく練られているため、その解説においては、個々の「論点」すべてを基本から解説しだすとページ数が幾らあっても終わらず、かつ「本当に検討すべきこと」が見えにくくなる、という宿命があります。
 この問題に対し、『憲法ガール』においては、「ま、これ以外にもいくつか論点はあるけれど、つまらないしどうでもいいから割愛するわ」(C.V.トウコ)という形で主要でない論点を本文から落とし、解答例において本文に載っていない論点も含めて一つの解決策を提示する、という形で対処していました。
 本書『行政法ガール』では、「あまりおもしろくないので、割愛っと!」(C.V.シエルさん)と、同じように対処することもあるのですが、それに加えて、本筋でない論点は「知識問題」として片づける傾向があります。本書中で、行政法の「知識」として語られていることの中には、政策的に流されているものがある(=必ずしも知っておく必要はなく、暗記する必要もない)ということは知っておいてよいと思います。「こんな知識、知らなかった!」とショックを受けて文献の荒波に飛び込むといったことはしない方がよいでしょう。(例えば、「公共組合」の「4つの特徴」を「知識」として押さえている受験生がどれだけいるでしょうか?)

 『憲法ガール』の解説は非常に美しく、読むと感動するのですが、それゆえに難しく、読むと「自分は全然できていない」と落ち込むタイプの解説でした。それに対し本書の解説は、全体的に非常に穏当――悪くいえば地味――であり、憲法ガールほどの感動(「こんな考え方があったのか!」)は、もしかしたら薄いかもしれません。個別法を超え、茫漠とした憲法理論に飛び込む憲法と、個別法の解釈に従事する行政法と、それぞれの科目としての特徴なのだろうと思います。(なお、『行政法ガール』の内容に感動しないというわけではありません。あくまでも全体を通しての印象です。)
 上記の内容と基調を合わせる形ですが、本書の「解答例」は、(あらゆる論点に真正面から答え、一つの「満点答案」を体現していた『憲法ガール』に比べると)割合簡潔なものが多くなっています。十分に「満点答案」だとは思いますが、現実的に書けるところを意識した解答例になっている、という印象です。どちらの解答例も良いですね。


 いくつか留意点を述べてみたところで、絶賛に移ります。本書の一番の特長は、冒頭にもコメントした通り、「語り得ぬものを語る」点にあると思います。
 行政法という科目は、他の科目に比べ、覚える量がかなり少なくて済む科目です。これが何を意味するかというと、知識に頼らない「行政法的な思考方法」を身につけることが試験との関係では決定的に重要になる、ということです(この意味で「ラミ先生のワンポイントアドバイス」は必読です(特に108頁の③「仕組み解釈」とは何か))。
 この「思考方法」は、単純な知識ではないため、ただ漫然と解説書を読んでいても、そして問題に対する「解答」をいきなり読んでも、なかなか身につくものではありません。本書は、(他の演習書にありがちな単なる対話形式ではなく)「無駄」の多い小説形式を敢えて採り、ぐるぐると遠回りをしながら結論へと向かっていくスタイルを採ることで、読者に「行政法的な思考方法」を身につけさせようとしている、と思います。「思考方法」という「語り得ぬもの」(著者の言葉を借りれば「秘儀」)を、なんとかして語り、伝えようとする本書の試みに、私は、敬意を覚えます。

 ということで、今回もかなり長くなってしまいましたが、『行政法ガール』の感想でした。本書と橋本『行政法解釈の基礎』とを合わせて読みこみ、是非行政法を攻略していただきたいと思います。