僕は、新司法試験の選択法は倒産法を選択しました。倒産法を勉強するに当たって、目を通した本を紹介します。他の科目と違って、そこまでまだ倒産法勉強歴が長くないので、軽く紹介するにとどめ、今後紹介を追加したい本はタイトルだけ書いておこうと思います。
改訂情報を追記しました(4月18日)。


【入門書】

→本格的に勉強するには足りないが、まずは短い時間で全体像を知るために読むと良いかもしれない本。学部や、ロースクールで授業がある方にとっては、不要かもしれません。


 

山本和彦『倒産処理法入門』[第4版]



倒産処理法入門 第4版
 
感想
→入門書の定番。学部レベルでの倒産法の授業では、本書が教科書指定されることが多い気がします。薄さに比べて内容はそれなりに濃密です。

 まず、倒産法制全体の概観がなされたあとで、順に、破産、民事再生、会社更生と説明がなされます。「はしがき」にもある通り、破産法以外の解説が意図的にかなり厚くなっています。そのため、相対的に破産法プロパーの説明はかなり圧縮されています。ところどころに挿入される「コラム」が結構面白いですね。
 倒産法全体を知るには最良の一冊ではないかと思います。



『プレップ破産法』






藤田広美『破産・再生』



破産・再生
感想
→『講義民事訴訟』『解析民事訴訟』で有名な元裁判官・藤田広美先生の著作。藤田先生はこのほかに『民事執行・保全』もお書きになっているため、広義の「民事訴訟法」全ての分野について藤田先生の著作がそろったことになります。

 本書は、倒産法を学ぶための標準的なテキストとして書かれていますが、その内容は、(本書の厚みに比べると)意外と薄いです。講義民事訴訟と同じ感じでしょうか。
 藤田先生の語り口は大変に読みやすく、すらすらと読むことが出来るので、どちらかというと入門書として使用した方がよいのではないか、というのが読んだ感想です。本書だけで、試験に臨むことはあまりおすすめしません。


 

松下淳一『民事再生法入門』[第2版]



民事再生法入門 第2版

感想
→倒産法の第一人者(そして現行法の立法者)、松下淳一東京大学教授が「法学教室」に連載したものの書籍化。その見た目、薄さ、「入門」というタイトルに比して、内容は驚くほどに濃密です。

 コンセプトは、「破産法の勉強を一通りしてこれから民事再生法を勉強しようとする学生を典型的な読者として想定して、民事再生法を概説するもの」。したがって、破産法と民事再生法とで共通している箇所(否認権など)、破産法において身に付けておくべき倒産法全体の考えなどは前提とされており、説明は基本的にカットされています(それゆえに、この薄さでこの内容を実現しているともいえるでしょう)。

 松下教授は立法者サイドの方でもあるため、説明は立法者からの語り口、という感じを受けます。この法律はこのような趣旨で立法され、この文言はこのような場合に肯定される、や、この制度はこのような法制度であり、条文はこのような順番で配置されている、などといった説明がなされており、個人的には大変分かりやすかったです。破産法、民事再生法は法典がとてもよくできているように思いますが、そのため、条文に即して説明がなされた方が分かりやすいように思います。
 条文の趣旨から、文言に則した説明がなされているので、かなり試験向きだと思います。
 
 授業などで破産法を一通り学んだあとであれば、本書だけで民事再生法は(少なくとも司法試験までは)大丈夫と言ってしまってもよいような内容です。山本『倒産処理法入門』と同じく、他の論文や評釈の中にも引用されることがある本で、専門家からの信頼もうかがえます。繰り返しになりますが、司法試験レベルであれば、本書で必要十分だと思います。大変にお薦めです。




法曹會『例題解説 新破産法』『例題解説 民事再生法』



感想
→あまり知られていませんが、法曹會の雑誌「法曹」に連載されたものがまとめられた本です。現在の破産法、民事再生法について、おそらく想定されているのは修習生や、倒産法のことを勉強したい新人弁護士でありましょうが、そのような実務家に向けて、基礎知識と実務の運用を平易に解説した本です。ただ、司法試験受験生にも有益な個所は多いと思います。
 破産法は、新破産法が制定されてから出されたものであるが、民事再生法は出版されたばかりであるので、新しい、という意味でも価値があると思います。
 
 内容は、体系順に淡々と、実務的な観点を踏まえながら、平易に法制度と実務の運用(東京地裁破産部の運用など)が説明されています。ですます調で、丁寧に、整理された解説がなされている(しかもところどころに実務の運用の紹介まで含まれている)ので、外見に比べて面白く読めると思います。ただ、民事再生法は、松下『入門』が素晴らしいので、取り立てて読む必要はないかも。





【基本書】
→司法試験の選択科目として倒産法を選択するのであれば、どちらか一冊は持っておきたいです。どちらもかなり重厚ですので、通読というよりは、辞書として、です。




伊藤眞『破産法・民事再生法』[第3版]



破産法・民事再生法 第3版

感想
→伊藤眞教授は、『民事訴訟法』でも有名ですが、本書も有名です。本書は、倒産法分野における体系書として、他の追随を許さない位置を獲得しています。(某破産再生部の裁判官曰く、理論水準は本書が一番高い、とのこと。)

 本格的体系書であり、決して学習者向けの教科書ではないため、初学者が本書を読んでも全く歯が立たないと思います。その分厚さゆえ、通読もほぼ不可能でしょう。

 ただ、代表的学説として必ず引用されるだけあって、内容は完全に信頼してよいと思います。内容の深さ、広さ共に最高水準であり、かつ、論点について結論を明示してくれているため、何か特定の目的をもって本書を読めば、ほぼ確実に一定の解決が得られる、という意味で、手元にあると安心できる一冊といえます。(後述するように、『倒産法概説』との対比において、受験生にとって本書の一番の良さは、論点についての結論がその明快な理由付けと共に明示してある、ということだと思います。)

 一つ注意があるとすれば、本書の採用する説明は決して裁判実務や通説と同じではないものが多いため、本書を読んで理解した考えが実は少数説であった、ということが往々にしてありうる、ということです。
 本書を読む際は、百選や『倒産法演習ノート』、『基本構造と実務』ないし授業などで、通説や判例実務の処理との「距離」を測りながら読むと良いでしょう。
 とはいえ、司法試験との関係だけ考えれば、本書の説明で理解しても全く問題はないため、試験勉強と割り切るときは、そこまでする必要もないとは思います。




山本和彦・中西正・笠井正俊・沖野眞已・水元宏典
『倒産法概説』[第2版補訂版]



倒産法概説 第2版補訂版

感想
→倒産法分野の第一人者が集まり、「学習者向けの標準的な教科書」というコンセプトで執筆された本。学生のためにも書かれたという点で、伊藤眞『破産法・民事再生法』と比べると、本書の方が読みやすいです。

 本書は「教科書」として執筆されているので、初学者でも読むことが可能です。ただ、叙述の順番が独特で、破産法、民事再生法、会社更生法などの倒産諸法が併行的に説明されています。目次も、ちょっと特殊な並び方をしています。ですから、最初に読むときは破産法部分だけを拾い読みして行かなくてはならなかったりして、ちょっとだけ面倒ですね。
 この点、伊藤眞『破産法・民事再生法』は、破産法、民事再生法と完全に分かれており、かつ順番も一般的な順番なので、個々の法律の仕組みを学習する際は便利です。
 ただ、司法試験では清算型(破産法)と再建型(民事再生法)の比較問題がたまに出題されるために(平成26年度など)、ある程度両手続の概要が頭に入った後は、本書の併行的な記述はむしろプラスに働くだろうと思われます。そして、本書に慣れると、本書のような記述の方が分かりやすいときもあったりします。

 共同執筆であるために、執筆箇所ごとに多少のばらつきはありますが、執筆者はいずれも第一人者であるため、全く問題はないと思います。後記『倒産法演習ノート』とのリファレンスも素晴らしいため、司法試験受験のためであれば、本書を選んでおいて間違いはない、といえます。

 内容は、争いのないところを丁寧に説明し、基礎的知識を整理した上で、争いのある箇所は争いがあることを明示しています。

 敢えて欠点めいたものを挙げるとすれば(特に伊藤眞『破産法・民事再生法』との対比において)、争いのある箇所について「争いがある」で終わらせている部分が多く(共著のため自説を明示することは控えめになっている)、読んでいて結局どうなんだ、と思うことが割とある、というところです。
 この点は、読めば一定の信頼ある解決が得られる伊藤眞の方が良いと思います。ただ、この点については、本書と他の本(例えば『倒産法演習ノート』)を読むことで解決できるため、大きな欠点ではないでしょう。




【判例集】
→倒産法の判例については、旧法下のものも多いですが、新法制定後にも重要判例が次々に出ているので(適用されている法は旧法であることが多いが)、新しい判例集はおそらく必携です。法律が新しいため、法律にかなりの程度書いてありますが、しかし判例の重要性はとても高いです。事案が入り組んでいたり、たくさんの法的論点が絡む事案が多いため、判例学習がとても面白いのが倒産法の特徴だと、個人的には思います。




『倒産法判例百選』[第5版]



倒産判例百選 第5版 (別冊ジュリスト 216)
感想
→必携だと思います。2013年に第5版が発売されましたが、新しい重要判例が多く掲載されています。
 
 民事訴訟法、民事実体法の学者だけでなく、多数の実務家も執筆に加わっており、解説の質は全体としてはとても高いです。是非、解説も読み込むべきです。ただ、一つ前の版である第4版の解説も素晴らしいものが多いため、第5版の解説中に「本百選〈第4版〉」として参考文献に挙げられている解説があれば、迷いなくコピーして挟み込むことをすすめます。




『倒産法判例インデックス』







【演習書】
→司法試験の過去問も、勉強になる問題が多いですが、いかんせん網羅性に欠けるため、何か一つは解いておきたいところです。




新保義隆『論文基本問題⑧ 倒産法80選』



論文基本問題 倒産法80選
感想
→Wセミナーから出ている「120選」シリーズの倒産法版。著者は倒産弁護士であるらしく、はしがきから熱意?が伝わってきます。
 内容は判例と学説(主には伊藤眞学説)を中心にしつつ、網羅的に基本的な論点がまとめられています。答案例も穏当にまとめられており、基本的な論点の位置づけや、答案上の展開の仕方を学ぶにはよい演習本であると思います。
 ただ、このシリーズの特徴ではありますが、ちょっと退屈なので、買うときは心を強く持つ必要があると思います。




『基礎トレーニング倒産法』





山本・岡・小林・中西・笠井・沖野・水元『倒産法演習ノート―倒産法を楽しむ22問』[第2版]



倒産法演習ノート―倒産法を楽しむ22問 第2版
感想
→弘文堂から出ている「演習ノート」シリーズの倒産法版。著者陣、その設問数からわかるように、倒産法の演習書の決定版だと思います。

 超一級の学者と実務家がそれぞれ個性を生かして執筆に当たっています。内容は長文の設問と、その解説です。決して司法試験的とまでは言えませんが、答案例もついています。

 解説のレベルの高さと設問の網羅性は他の追随を許さないものです。本書をつぶせば、司法試験にも十二分に対応できると思います。(というより、若干オーバースペックです。平成23年度以降の司法試験の難化傾向からすると、むしろ丁度良くなったのかもしれませんが。)

 設問も解説も、本当に面白くかつ高度な議論が展開されています。各設問の末尾には参考文献が多数挙げられており、発展的な学習もできます(解説が既に発展的、という説もありますが)。
 あと、著者陣と出版社からわかると思いますが、『倒産法概説』とのリファレンスが抜群なので(伊藤眞や松下淳一も引用されていますが)、概説ユーザーにはそれもありがたいところだと思います。

 破産法と民事再生法を一通り学び終わったら、是非挑戦して欲しい本です。著者陣が、民事訴訟法研究者、民法研究者、そして倒産法弁護士と、本当に個性豊かな方々で、その解説の内容や答案例の書き方が(非常に良い意味で)ばらつきがありますので、解説を読んでその担当者を予想する、という楽しみ方もあります(笑)。
 
 ただ、レベルはかなり高いので、「演習を解きながら倒産法を学ぼう」と考えている初学者には向かないだろうとも思います。中級者へと、そして上級者へとステップアップするための本、という位置づけでしょうか。




【副読本】
→買う必要はないが、これらの本はよく解説中に引用されるため、議論を知るために読むことはとても有益であろうと思います。




『新破産法の基本構造と実務』



新破産法の基本構造と実務 (ジュリスト増刊)
感想
→立法者、学者、実務家など、倒産法に関係する第一人者が集まって、新破産法(平成16年制定)のそれぞれの条文の趣旨や、論点について、ほぼ網羅的に議論をし、それが座談会形式で収録されている本です。

 立法趣旨などを知るためのソースであり、様々な論文や本の中で頻繁に引用されています。とても有名な先生方が、条文のつくりや趣旨、論点について議論をし合っている本であって、各論点についての学説、その理由、対立点などが明快にわかります。とにかく読んでいてとても勉強になる本、といった感じです。(伊藤眞『破産法・民事再生法』などでも、「基本構造○○頁参照」で済ませている論点がそれなりにあります。)

 ただ、本書には、議論を紹介する、という目的が大きいようで、対立があって決着がついていない論点については、これこれこのような対立があります、で話を終わらせている箇所が多いです。結論が出ないので、その部分は少し物足りないような気もしますが、裁判実務はどの立場に立っており、学説とどこが対立しているか、なにが通説で何が少数説か、などがはっきりとわかるため、論点の全体像を知るのには最良の書だと思います。是非図書館で開いてみて下さい(僕は購入しましたが、手元にあると何かと便利なので、買ってもいいと思います)。




『新破産法の理論と実務』



新破産法の理論と実務
感想
→上記『基本構造と実務』とタイトルが似ていますが、内容は全く別の本です。多数の学者と実務家が、与えられた論点について、旧法下の議論と、それが新法下ではどうなるか、といったことを完結にまとめた論考が掲載されています。たとえて言えば、争点シリーズのグレードアップバーション、といった感じ。争点のように使うと良いかも。ただ、ちょっと古いかと思います。

 
 

【おまけ】


『趣旨規範ハンドブック 倒産法』



司法試験論文選択科目趣旨・規範ハンドブック 倒産法
感想
→受験生御用達(?)の、趣旨規範HB倒産法バージョンです。
 他の科目については評価を留保しますが、少なくとも倒産法については、(多少足りない部分がみられるものの)内容に大きな誤りはなく、書きこんで使っていくととても便利な一冊だと思います。破産法に比べ、民事再生法分野が相対的に薄いです。民事再生法も試験には普通に出題されるので、この箇所は結構自分で補充する必要があると思います。

 本書は、おそらく伊藤眞『破産法・民事再生法』を種本としているようで、だからこそ内容が(予備校本にしては)正確なのだろうと思います。
 ただ、伊藤眞学説が随所に顔を出しており、しかもそれが、あたかも唯一の答えであるかのように書かれているため(『基本構造』などで、「この論点については収束が付いていないが、裁判実務は~解している」とされている論点について、裁判実務と対立している伊藤眞学説のみが紹介されていることがある)、出来れば「セカンドオピニオン」を取れると良いでしょう。百選などでもよいだろうと思います。