【判例集】

・百選7版を追記しました(8月4日)。
・前田250選10版及び山口新判例3版を追記しました(4月23日)。



『刑法判例百選Ⅰ[第7版]』『刑法判例百選Ⅱ[第7版]』



刑法判例百選1 総論(第7版) (別冊ジュリスト 220)
刑法判例百選2 各論(第7版) (別冊ジュリスト 221)

評価:★★★(☆)
一言:使いやすくなったが、難しい解説も多い/参考文献ガイドとしても

感想
→まずは百選ですね。2014年に第7版が発売され、2008年刊の第6版に比べると、大変良い判例集になったと思います(旧版から大幅に感想を書き換えました)。
 刑法は(民法同様)研究者の層が厚く、各判例に付属している解説もぜひ読んでおきたいところです(後述するように、若干の留意点はあります)。

 旧版は、「出版が古い」「判旨が短い」「解説のトーンが古い」の三重苦でしたが、第7版になって、これらの欠点は大幅に改善されています。

 まず、平成20年以降の新判例が大幅に追加されました(ⅠⅡ合わせて17件(うち下級審1件))。その中には、正当防衛、共謀の射程、承継的共犯など、重要な論点に関する新判例が含まれており、これら新判例の紹介と、それに対する解説が読めるのは大きなメリットです。
 判旨も比較的長めに引用されています(承継的共犯に関する最二小決平成24・11・6など、個別意見まで引かれているものもある)。
 これに加え、他の判例の解説中にも平成26年までの最高裁判例・下級審裁判例が数多く紹介されており、判例集としてとても使いやすくなったと言えます。

 解説についても、かつての学説紹介が主流であったトーンとは一線を画し(刑法である以上当然学説紹介はすべきですし、実際にありますが)、まずは判例の意義と問題の所在を明らかにする姿勢が全体からうかがえます。
 司法試験に取り組むにあたって、判例の結論とその論理を無視することはできなくなった以上、受験生としては判例の内在的な分析に注力せざるを得ません。本書は一級の研究者による判例分析が詰まった本として、判例学習にあたって必読文献になると思います(今までもそうでしたが)。

 ただ、本書にも若干の留意点はあります。刑法学は有名な判例について膨大な議論の蓄積があり、百選はそれをたった二ページ弱(実際には、判例の内在的分析もしなければならないのでもっと短い)で紹介しなければならないという制約を負っています。この制約ゆえに、百選の解説は「議論の上澄みだけの紹介」という性格を色濃く有します。百選における解説はかなり凝縮されたものになっているということです。本書を読んで特にそう感じました。

 何が言いたいかというと、どの解説も素晴らしいのですが、要は「難しい」解説が多いということです。おそらく、学習がかなり進んだ段階で読んでも、学ぶものは多いのではないでしょうか。

 初学者は判例の紹介のみ読んで、そのあとに展開される議論についてはいったん置いても十二分だと思います。
 ある程度学習が進んだ方や、当該判例について詳しく調べたい方は、是非、解説中に挙げられている参考文献にあたることをすすめます。本書は参考文献ガイドとしても、非常によくできていると思います。調べものをするときはまず本書を見るとよいでしょう。

 本書のより詳しい内容については友人のブログ(legal high!(仮))にとても丁寧な解説がありますので、是非そちらも合わせてお読みください。百選Ⅰ百選Ⅱ






西田典之・山口厚・佐伯仁志『判例刑法総論[第6版]』『判例刑法各論[第6版]』



判例刑法総論 第6版
判例刑法各論 第6版

評価:★★★
一言:一冊あると便利・一度は目を通したい

感想
→東大系の先生方が編集した、ザ・判例集です。総論各論二冊合わせて、1000以上の判例を掲載しています。(編者の某先生曰く、「この程度は最低限読んでおいてほしい」とかなんとか。)
 2013年3月に改訂されたばかりであり、最新判例までカバーされています。

 本書の特徴は、体系に沿って、リーディングケース(大体が大審院の判例です)、最高裁判例、下級審判例と並んでいるところです。理論的には意義を失っている判例も掲載されており、歴史的な判例理論の流れもわかるなど、教育的な配慮がうかがえます。
 事案の概要から丁寧に書いてあり、基本的に本書を持っていれば判例に困ることはないでしょう。いくつかの基本書は百選と本書をリファーしているので、基本書を読む際にそばにあると便利ですね。

 ただ、解説は全くありません。また、判例理論とはちょっとずれた下級審判例も掲載されているので、本書だけを読んでどうこうする、というのは難しいかと思います。
 ロースクールでの授業は、重要判例をじっくり読む、という方向のものが多いかもしれません。その場合、大量の判例に目を通すことは時間的に難しくなってきますので、時間に余裕のあるときに、本書に載っている判例「くらい」は、読んでおいた方が良いと思います。(大変ですが…。)




前田雅英『最新重要判例250 刑法[第10版]』



最新重要判例250 刑法 第10版

評価:★★★
一言:定番

感想
→一時期は司法試験業界で一世を風靡した(?)前田教授の手による判例集です。250を超えるくらいの判例が掲載されています。

 このシリーズの特徴ですが、基本的に1頁1判例で、2色刷りになっており、読みやすいレイアウトです。百選を少し超えるくらいの判例数ですが、試験的には十分な量だと思います。
 判例理論の解説と、前田学説からの説明が書いてあります。前田教授の基本書を使っている人は言わずもがなですが、そうでない人でも、判例を肯定する方向の説明がなされているので、択一にも便利かなと思います。




山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『基本判例に学ぶ刑法各論』



基本判例に学ぶ刑法総論
基本判例に学ぶ刑法各論

評価:★★★★
一言:基本書代わりにも?

感想
→山口教授による、判例学習のための本です。出版は比較的新しいです(2010,2011年刊)。

 本書の特徴は、章ごとにまず全体についての軽い説明があり、そのあとで判例の紹介、判例の解説と進むことです。このように刑法一般理論の説明の中に判例を位置づけようとする試み(もしくは判例を通して刑法理論を学ぼうとする試み)がなされており、「基本書と判例集の間」な趣があります。

 解説では山口学説はほぼ鳴りを潜めており、判例の解説に徹底しています。解説の内容は本当によく整理されていて、短いながらも的確にポイントを押さえたものだと思います。
 判例の事案と理論の説明が基本で、判例がどうしても理論的に正当化しえないときのみ、批判的なコメントが付されている程度です。

 判例数も、少ないように思えますが、学習に必要な判例はほぼ掲載されており、解説の脚注で紹介される判例(これも相当数あるのが本書の特徴です)まで合わせると、かなりの判例をカバーしていると思います。

 本書を発見してからは、僕はほぼ本書(と下記『新判例』)を使用していました。東京大学法科大学院での山口教授ご自身の授業を元にして作成されたことがうかがえる内容で、新司法試験の傾向に沿った本だと思います。個人的には、非常に素晴らしい本だと思います。




山口厚『新判例から見た刑法[第3版]』



新判例から見た刑法 第3版 (法学教室ライブラリィ)

評価:★★★☆
一言:より深い考察のために・『基本判例』とセットで

感想
→法学教室の連載を書籍化したもの。2015年2月28日に3版が出版され、「新判例」の名にふさわしくなりました。2版からは、新しい判例が3件ほど追加されています。

 内容は、主に平成15年以降の判例を扱い、それぞれについてかなり深い考察を加えていくもの。『基本判例』とは違い、取り扱う判例数が少なく、代わりに考察がかなり踏み込んだものになっています。山口学説もしっかり登場します。

 総論分野と各論分野とで同数程度の判例が扱われています。総論分野は、山口教授の『刑法総論』の抜粋のような部分もあり、彼の基本書を持っている人であればあまり新しさは感じないかもしれません。

 本書で特筆すべきはむしろ、各論分野だと思います。各論分野も、彼の『刑法各論』と基本的には同じですが、各論分野は判例と学説との乖離が狭いからか、より判例内在的な考察が深められており、本書だけの「味」が出ている印象です。非常に詳しく、かつ説得的な記述ばかりで、各論分野の解説は熟読すべき内容だと思います。

 上記『基本判例』はあくまでも判例の立場での紹介にとどまっていて、山口教授の私見は本書に委ねられている箇所もあり(文書偽造など)、できれば3冊持っておきたいところです。



小林充・植村立郎『刑事事実認定重要判決50選上・下[第2版]』



刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(上)
刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(下)

一言:やることが無くなった人向け

感想
→刑事事実認定の見地から、重要な判例を50ピックアップし、第一線の実務家(判事)がそれぞれ考察を加えていくものです。上下巻で刑法、刑事訴訟法の事実認定を扱っています。

 第2版になってぐっと分厚くなり、判例もかなり一新され、新しいものが増えています。本書は引用される頻度が高く、信頼も厚いことがわかります。

 内容ですが、正直かなり高度だと思うので、刑法の理論面は固まって、試験でもう一歩高いレベルに行きたい人が、試験に出てくる限度での当てはめ方を知るために読むものだと思います。
 判決選という形ですが、実体法の理解に資するところ大きく、中々位置づけが難しい本ではあります。

 因果関係・共犯・殺意認定などは司法試験レベルでも出題されますが、本書のまえに『和光だより』や辰巳『法律実務基礎科目ハンドブック』などを読んだ方がためになるようにも思いますので、上記の通り、「やることが無くなった人向け」。ただ、読むと勉強になります。参考文献も良いです。