ロースクールにおいて、そして予備試験において必要な実務科目のうち、「民事実務」科目について、まとめてみようかと思います。

 現在の法曹養成制度は、司法試験合格後の司法修習が1年間に短縮されており、昔(2年間だったり1年半だったりしたようですが)の修習における「前期修習」として学んでいたことは、ロースクールで学ぶことになりました。
 予備試験はロースクール卒業と同等の学力を保証するものですから、予備試験の科目に実務科目があるのも当然といえば当然ですね。今の時代、ロースクールに入学する前に予備試験を目指す方も多いでしょうが、そのような人はまず、自分で実務科目を一通り学ぶ必要があります。
 当然、ロースクール生も、授業だけでは十分に学ぶことは難しいでしょうから、自分で勉強する必要があります。

 僕も何冊か「実務科目」と言われる本を読んできました。皆様の書籍選びのご参考になりますことを願っております。 



【要件事実】

 「民事実務科目」と言われた場合、その中のほぼ全てを占めるのがこの「要件事実」という分野です。ロースクール制度が始まってからにわかに注目され、書籍のタイトルに「要件事実」という言葉を入れたら売り上げが伸びる(某有名裁判官の言)、要件事実は暗記じゃない、実務では常識だ、司法試験の民法を解くときは要件事実的な思考をすべきである、などなど、様々な噂がまことしやかにささやかれておりまして、受験生として避けては通れないような雰囲気を漂わせています。

 民事訴訟法の理解にも繋がりますので、知っていて損はない分野であることは間違いありません。そして、前述のように要件事実は近年注目を浴びている分野ですので、関連する(学習者向けの)書籍もかなりの数刊行されています。
 ただ、司法試験本試験に直接出題されることは多くなく(択一で登場し、論文試験でも民法民訴の前提とされてはいますが、「実務科目」という試験はありません)、結局合格後の司法修習で学ぶことです。ですから、受験生の身分としては、「要件事実マニア」にまでなる必要はないのではないかな、と、個人的には思っています。最低限身につけておけばよいのではないでしょうか。

・CB要件事実・事実認定を追記しました(8月7日)。紹介したと思っていましたが、書き忘れていたみたいですね。



司法研修所[編]『新問題研究 要件事実』


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司法研修所編『新問題研究要件事実』



評価:★★★
一言:まずはこの本

感想
→司法研修所がロースクール生向けに出版した、初学者向けの学習書です。いわゆる「新問研」。
 平成23年に改訂されており(本書の前身は『問題研究要件事実 改訂 言い分方式による設例15題』)、本書によって、司法研修所が貸借型理論につき改説したことがわかります。

 内容は至って平易で、初学者にも分かるように書かれています。初めて読む人は、文字がすごく大きいのでびっくりするかもしれません(笑)。

 まず事例としてX,Yの「言い分」が書かれており、その言い分だけを読んで訴訟物(Stg)、請求の趣旨(Ant)、請求原因事実(Kg)、抗弁(E)…以下を書けることを目的として解説がなされています。
 全ての問題について「請求の趣旨」がきちんと書かれ、模範解答としての「事実記載例」「ブロックダイアグラム」も載っているので、学習者にはとても親切なつくりです。

 初学者向けの学習本のため、各類型について立ち入ったことまでは書かれていません。それゆえ、(例えば予備試験の問題など)演習問題を解こうと思ったら、この一冊だけでは足りないでしょう。

 ただ、要件事実の基本中の基本は「概ね」押さえられており(概ね、の意味は後述しますが)、まずは本書を完璧にするところから始めるのが良いと思います。下記『類型別』には「請求の趣旨」の記載例が載っていないので、その意味でも本書は必要だと思います。

 なお、本書の前身が『問題研究要件事実 改訂』であることは冒頭に述べましたが、『新問題研究』になるにあたって、なぜか「占有権原の抗弁」と「債権譲渡」の章が削除されています。
 特に債権譲渡の要件事実(譲受債権による請求)は初学者には難しいために削られたのかもしれませんが、三者の構造や、対抗要件などを考えるに当たって考えておくべき類型だと思います。図書館などでそこだけ印刷して挟み込むなり、他の本を読んで補充するなりしておくと良いのではないでしょうか。




司法研修所[編]『改訂 紛争類型別の要件事実』


類型別









司法研修所編『改訂 紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造』


評価:★★★
一言:最終的な目標・辞書として?

感想
→元々司法修習生用に作られたテキスト。こちらも司法研修所です。いわゆる「類型別」。

 上記『新問研』と同じくらいの厚さですが、内容は大きく異なります(文字も小さいです(笑))。
 重要な類型ごとに、訴訟物と、請求原因以下の説明がなされています。説明が終わるごとにブロックダイアグラムが記載されており、議論をまとめてくれています。

 それぞれの要件事実について説明があるのですが、その説明は必要最小限度に抑えられており、本書だけを読んでもわからないところが多々出てくるかもしれません。
 逆に言えば、本書だけで学習出来る人は優秀な方だ、ということでもあるのだと思います。

 説明が最小限度にとどめられていること、「新問研」のように事実記載例がないこと、文字が小さいこと等から、本書の薄さに比して内容は驚くほどに濃密です。裁判官の方が「類型別を一通り頭に入れて使いこなせるくらいが、修習生には求められている」と仰っていたのを聞いたことがありますが、本書をクリアすれば二回試験は大丈夫、という趣旨だと思います。それくらいには、内容の詰まった本だということでしょう。



司法研修所[編]『10訂 民事判決起案の手引』


手引









司法研修所編『10訂 民事判決起案の手引』


評価:学生には要らないかもしれないので評価は保留
一言:もし持っていれば参考になるかも

感想
→姉妹本の『刑事判決書起案の手引』を手に入れたときに、ついでに購入したものです。内容は旧様式の判決と、新様式の判決の書き方が載っています。

 本書は完全に修習生のための本であり、学生の身分ではあまり使いこなせない本でした。ただ、本書の巻末に「事実摘示記載例集」として「請求原因・抗弁・再抗弁・再々抗弁記載例関係一覧表」「請求原因記載例」「抗弁記載例」「再抗弁記載例」「再々抗弁記載例」が資料として載っており、これは多分すごく使えます。コピーして手元に置いておくのもアリかもしれません。(とある元研修所教官によると、「この表を載せたせいで要件事実が単なる暗記科目になってしまいました(苦笑)」とのこと。)



東京リーガルマインド『新・論文の森 法律実務基礎』[第2版]



司法試験予備試験 新・論文の森 法律実務基礎 <第2版>

評価:★★★★
一言:予備試験対策の定番

感想
→LECが出版している演習書「新・論文の森」シリーズの実務科目です。
 本ブログでもいくつか紹介してきました。このシリーズは旧司法試験よりは長く、司法試験本試験よりは短めの事例問題を中心に掲載しており、基本的には予備試験対策の演習書としての立ち位置が与えられるものかと思います。

 本書は「法律実務基礎」として、まさに予備試験の論文対策本です。ですが、ロースクールの実務科目のためにも使える本だと思います。

 内容としては、民事実務科目10題、刑事実務科目10題からなっており、他の科目より少しだけ問題数が少なくなっています。民事は要件事実を中心に、民事手続、法曹倫理が織り交ぜられており、刑事は刑事事実認定を中心に、刑事手続と法曹倫理が含まれています。
 要件事実と刑事事実認定ばかりやりがちになってしまう実務科目の勉強ですが、きちんと他の出題分野にも触れられているところが素晴らしいと思います。

 各10題しかないと思われるかもしれませんが、それぞれ押さえるべきところをきちんと押さえた出題になっており、解説まできちんと読み込めば、かなりの範囲をカバーできるようになっています。
 問題は、各当事者の「生」の言い分を読んで訴訟物、請求の趣旨、請求原因以下を考えさせるもので、大変実践的な訓練になります。解説も丁寧に書かれています。他の科目より問題数が少ない分、解説が丁寧なのが良いです。

 「新・論文の森」シリーズの中では最も良い出来なのではないでしょうか。本書を解いていくと共に類型別なり大島講義(下記)なりを読んでいくことが、基本的な勉強方法になるのではないかと思います。


 

大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎(上巻)』[第2版]



完全講義 民事裁判実務の基礎〈上巻〉

評価:★★★★☆
一言:非常にわかりやすい・通読/辞書どちらでも

感想
→著者の大島先生は現役の裁判官で、現在京都地裁統括判事をしておられます。神戸大ロースクールで教えていた経験もあるようです。
 初版は上下巻に分かれていなかったのですが、第2版で上下巻構成となりました。上巻が要件事実、下巻が事実認定を主に扱っています。

 内容としては、類型別+αくらいの広さと、比べものにならないくらいの深さ(大げさ)があります。

 本書はまず、要件事実の説明に入る前に「民事訴訟の基本構造」「訴訟物」について説明がなされており、「主要事実」「要件事実」「請求の原因」「請求原因事実」など、混乱しがちな用語についても解説がなされています。大変丁寧に読者を導いてくれるので、初学者でも読めるだろうと思います。

 本書の良いところは、とにかく説明が丁寧でわかりやすいこと。要件事実について、売買から始まり、最終的には相続などの類型まで講義があります。
 本書は結構分厚いのですが、内容がそこまで細かいわけではありません。むしろ、類型別に書いてあるような事項を基礎から、丁寧に、対立する考え方の紹介も含めて解説してあるために、ここまでの厚さになっています。それゆえ、他の本と比べると驚くほどに簡単に読み進めることができます。

 あと、コラムが充実しているのが個人的には素晴らしいと思いました。要件事実を学習していて、多くの人が抱く疑問について、まさにピンポイントで解説がしてあります。
 たとえば、(諾成契約である)賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての不動産明渡請求権を考える際、なぜ「基づく引渡し」が必要なのか?や、同時履行の抗弁権の「権利抗弁」としての性質と「存在効果説」とは矛盾しないのか?など。学習者のことをよく考えてある本だと思います。

 あえて欠点を述べるとすれば、値段がそれなりにすることと、分厚いのでさっと復習したりするのには向かない、ということくらいかなと思います。要件事実について、単なる暗記ではないしっかりとした理解を築き上げるため、読み込むのが良いと思いますが、辞書として用いても十二分に活躍してくれると思います。

 僕は類型別よりは本書を読み込む人でした。類型別と本書と、どちらをメインにしても構わないと思いますが、要件事実を勉強していて疑問が浮かんだら、本書を紐解いてみると、霧が晴れるかもしれません。




村田渉・山野目章夫[編]『要件事実論30講』[第3版]



要件事実論30講 第3版

評価:★★★★
一言:緻密かつ濃密なテキストだが、少し難解

感想
→実務家と学者の先生方が多数執筆に加わっている、大変有名なテキストです。題名の通り、30の章から成り立っており、はじめの10講くらいは要件事実論の基礎として、総論的なことの説明に割かれています。それが終わってから、要件事実の内容に入っていきます。

 本書も大島講義と同じかそれ以上に分厚く、内容は大変に濃密です。学生向けに書かれたテキストの中では、1,2を争うのではないでしょうか。
 ただ、第10講~30講が演習問題形式になっていること、さらにそれに加えて17問の演習問題がついていること、補講として債権法改正と要件事実論とを絡めて論じてくれていることは、本書の特長です。

 最初の「要件事実論の基礎」(第1講~第9講)は、要件事実論を学ぶ上で前提となるべき事項について説明がなされており、一読すべき内容であると思います。

 本書は「要件事実論」として学んでおくべきことをおそらくほぼ全て網羅しているテキストであり、本書を解ききることが出来たらもう学習は必要ないと言ってしまっても良いようなテキストです。

 ただ、一つ欠点のようなものを挙げるとすれば、本書は全体的に多少難解です。内容が難しい、ということも勿論あるのですが、それ以外にも、説明の仕方が難しいところが多いような気がします。言葉遣い(?)が難しい感じです。伝統的通説から、最近の学説に至るまで紹介をし、それぞれに則った帰結を正確に述べているから、だと思います。ですので、要件事実を学び始めたばかりの人はもしかしたら本書を読んでもよく分からないかもしれません。ある程度学習が進んだ人向けです。(少なくとも、予備試験を突破するだけであれば本書は明らかにオーバースペックだと思います。)

 若干後ろ向きに書いてしまいましたが、本書自体は本当に良くできたテキストです。ある程度要件事実に慣れてきた人が更に上に行くために、本書を解くのが良いかなと思います。最新学説をも視野に入れた、深い議論が展開されています。中級者が、民事実体法の理解を含め、上級者になるためのテキスト、という感じがしました。
 初学者の方は、解説部分のうち司法研修所説以外の説の説明はさくっと読み飛ばすと良いと思います。

 なお、本書には全ての事例についてブロックダイアグラムが載っており、かつ、巻末には『民事判決起案の手引』と同じ要件事実表が記載されています。この表は3版から挿入されたもののようですが、手引のものより更に詳しいものであり、この表を愛用している人も少なくないようです。こういう「資料」は大変有用で、本書の良さの一つだと思います。

 第3版は最近発売されたものですが、内容はあまり第2版から変わっていないようですね。お好みで、お好きな方を買えば良いと思います。ちなみに、第3版は2012年4月に出版されているのですが、未だに貸借型理論を維持しており、ここは不満が残るところです。




伊藤滋夫・山崎敏彦[編]『ケースブック要件事実・事実認定』[第2版]



ケースブック要件事実・事実認定

評価:★★★☆(「要件事実」という枠組みでは)
一言:むしろ民法の本/民事実体法・要件事実・事実認定すべてに使える良書

感想
→法科大学院教育に向けて2002年(!)に初版が出版され、2005年に第2版出版。約10年前の書籍と古いため、受験生の中にはあまり知らない人も多いのではないかと思われます。
 まず簡単に要件事実と事実認定についての「基本的考え方」が導入として語られたのち、「ケース研究」として、全35の「事例」が掲載されています。著者は基本的に裁判官をはじめとする実務家です。

 冒頭に申し上げた通り、本書は割と古い本ではありますが、その内容は現在においても全く色あせていません。内容は、とても勉強になる良書だと思います。

 各事例は、「事例」「キーワード」「要約」「問題点」「事実の位置づけ」「事実の要件事実的構成」「事実認定上の問題点」「事件のすわりなど」、という順序で構成されており、最後に「練習問題」「ヒント」がついています。

 本書の特徴(特長でもあります)を三つほど挙げたいと思います。第一点は、なんといってもこの解説の順番です。

 「事案」は、長文の事例問題であり、私たちが普段目にするものです。それを、①「事例を解決するうえで必要な事実」と「不必要な事実」とに分け、仕訳されて整理された事実を②要件事実的に再構成し、実質的な争点をあぶりだしたうえで、③事実認定のポイントを指摘する。最後に④実務家の視点からみた「すわり(=落ち着きの良い解決)」を解説してくれます。(まさに「至れり尽くせり」といった内容です。)

 本書におけるこのような①「事案の整理」②「要件事実的再構成(=実質的争点の発見)」③「事実認定」④「妥当な結論」という思考の流れは、まさに現実の裁判において行われる作業であり、ロースクールの民事実務の授業、ないし司法研修所で学習する内容です。本書はこの「思考順序」を丁寧に学べる演習書です(これが明瞭な形で学べる演習書を本書以外で私は今とっさに思いつくことができません)。これが一点目の特長ですね。

 そして、当然、(タイトル通り)要件事実も網羅されており(何と言ったって全部で35題もあります)、頭からつぶしても、辞書的に用いても良い内容です。ただ、解説は基本的に文章のみで、ブロックダイアグラムなどは付いていないので、上記『完全講義』や『30講』よりは読みにくいかもしれません。これが二点目。

 また、これが本書の素晴らしいところなのですが、本書は要件事実プロパーというより、むしろ民事実体法の理解を深めるのに大変有用です(要件事実の勉強には、多かれ少なかれ実体法の理解を深める側面がありますが)。解説も、要件事実の解説というより、民法の解説がメインという趣があります。
 余談ですが、本書は京都大学の民法教授3人が中心となって著した民法演習書『民法総合・事例演習』の参考文献にも挙がっています。とくに債権総論分野における実体法の理解(民法423条の「要件」は何か、「無資力」とは何を意味するのか、など)に、本書は非常に役に立ちました。

 また長くなってしまい大変恐縮ですが(言いたいことがたくさんあってすみません)、本書は、このように、要件事実以外でも勉強になる内容を多く含むため、とても「息の長い」本だと思います。合格後もお世話になるでしょうから、一冊、手元にあると色々助かると思います。是非一読してみてはいかがでしょうか。




和田吉弘『民事訴訟法から考える要件事実』[第2版]



民事訴訟法から考える要件事実(第2版)

評価:★★★
一言:まず本書からでも・民事訴訟法と要件事実との架橋をはかる

感想
→和田先生が書かれた要件事実の解説書。第2版が最近発売されました。賃貸借型理論についての研修所の改説をフォローしたものです。

 本書は、民事訴訟法を学んだが、要件事実論にはまだ手を出していないか、出したばかりの学生を主たる対象にしています。用語を丁寧に解説していきながら、少しずつ、要件事実の考え方に慣れていくスタイルです。

 章立ては、「要件事実論と民事訴訟手続」「給付訴訟の訴訟物の法的根拠」「要件事実論の基本的類型」「弁論主義・証明責任」「要件事実論のその他の類型」の全5章。

 この章立てからも分かるように、要件事実論と、民事訴訟法とを交互に行き来しながら解説していくものです。初学者には大変にありがたく、かつわかりやすいのではないかと思います。むしろ、民事訴訟法の理解のために読むべき本かもしれません。

 最後の「要件事実論のその他の類型」は、本記事で紹介した他の本と同じように、要件事実の類型について説明がしてあり、イメージとしては「新問研」くらいを分かりやすく説明した感じでしょうか。定番の「図」をふんだんに使って説明がしてあり、「抗弁」と「否認」の違いなどが視覚的に理解できます。

 最後の「その他の類型」は他の本と変わらないので、本書はむしろそれ以外の4章を読むべきでしょう。民事訴訟法と要件事実論がつながり、理解が立体的になると思います。
 全体で200頁ほどしかないので、簡単に読めると思います。民事訴訟法を学んだら、読んでみてはいかがでしょうか。