【憲法の演習書】

 公法系はどちらもそうだと思うのですが、基本書を読んで体系を理解することと、実際に事例問題を解くこととの間にはとても大きな隔たりがあります。基本書をいくら読んでいても、実際に問題を解く段になると、手が動かない…という経験をされた方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

 これは、公法系の事例問題が(特に新司法試験の問題に顕著ですが)、基本書や旧司法試験で展開されている「大きな」憲法論ではなく、その事案に即した、その当該法律のとある条文に則した「小さな」憲法論を用いないとうまく解答できないようになっていることが大きいと思います。行政法もそうなのですが、基本書の議論と問題を解くときの議論とが、すこし他の教科と比べて離れている感じがするのですね。

 と、いうことで、何が言いたいかといいますと、問題が解けないと思って事例問題に手を出さず、基本書の議論を追っているだけでは、中々問題は解けませんよ、ということでした!笑
 解けなくても良いので、出来るだけ早い段階で事例問題に手を出すようにした方が良いと思います。これは、自戒を多分に込めています。出来なくても良いので、とりあえず早く演習をしましょう!

 憲法は、基本書もさることながら、演習書や副読本といったものの重要性がとっても高い科目だと、思います。

・宍戸『解釈論の応用と展開』第2版を追記しました(8月9日)。








小山剛『「憲法上の権利」の作法』[新版]


 
「憲法上の権利」の作法 新版

評価:★★★★
一言:手元に置いておこう

感想
→基本書、でも紹介しました。詳しい内容はそちらに譲ります。
 本書は、基本書としても勿論ですが、実際に演習問題を解くときにその真価を発揮するように思います。是非、演習の際は手元に置いて参照できるようにすると良いと思います。



伊藤建「憲法の流儀」


http://ameblo.jp/lawschool-life/

http://ameblo.jp/lawschool-life/entry-11370176369.html


一言:受験生目線

感想
→伊藤塾にて、同名の講座をも担当しておられた、伊藤建さん(Twitterアカウントは@itotakeru)が運営するブログです。2013年9月現在、第8回まで連載が書かれています。

 内容は、憲法の「権利論」というよりは、「憲法訴訟論」に近いです。第1回「司法消極主義」から始まり、「法令違憲と適用違憲」や、「主張適格」など、実際に僕ら受験生が憲法の事例問題を解いていると突き当たる疑問について、広く文献を引用しながら、とてもわかりやすく解説されています。

 なんといっても良いのは、実際に「書くこと」が念頭に置かれていることです。憲法の一般的な文献ですと、「実際に答案上に表現すること」が意識されて書かれている論文等は少ないので(ある種当たり前ですが)、詳しい文献を読んでも、それからどうしたらよいかわからなくなることが多いです。
 その点、このブログは書き方がわかる(と、言い切ってしまって良いかどうかは不安ですが笑)ので、受験生としてとても助かります。

 あと、毎回の記事の最後に「まとめ」として議論の結論、ポイントがまとめられていることが大変に便利です(笑)。このような、読者への小さな配慮が嬉しいです。

 連載もまだ7回と途中ですし、網羅性はありませんが、書かれている内容は受験生にとってはとてもためになることばかりです。是非、たけるさんの整理された憲法論を味わってみて下さい。

 なお、このブログは連載以外にも面白い内容が沢山詰まっていますので、時間があるときに他の記事も読んでみると、楽しいかも知れません。



宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開』[第2版]



憲法 解釈論の応用と展開 [第2版] (法セミLAW CLASSシリーズ)

評価:★★★★
一言:ある種「危険」な論点解説本

感想
→東京大学教授、宍戸常寿先生が法学セミナーに連載された同名の記事をまとめたものです。

 本書は、冒頭に演習問題(これは、一行問題から事例問題まで様々あります)が掲げられたあと、いわゆる「論証パターン」的思考をするA君と、そのようなパターン思考から抜けだそうとして思考のスパイラルに陥るB君の考えが述べられ、その後に解説がなされる、という形式になっています。

 このA君B君の考えが現在の(憲法に悩んでいる)学生の考えを反映しており、この両者の考えを先生の解説がたたきつぶす(笑)という構造です。

 本書ははしがきで述べられるように、憲法の各論点について明確な「答え」を示す本ではありません。むしろ、一応の解答として与えられていた「通説なるもの」の矛盾点を付き、壊すことによって(ショック療法的に)思考のレベルを一段階引き上げることを目指しています。
 基本的には三段階審査論に立脚した解説がなされています。

 解説は、各章冒頭の演習問題に対応するものではあるのですが、もっと一般的な問題についての方向性を示すものが多いです。このような意味で、純粋な「演習書」とは呼びにくいかも。論点解説本、と言う方が正しいように思います。

 それゆえ、本書は憲法の議論を一通りわかった人が対象です。旧司法試験のパターン答案くらいは書けるかな?くらいの人が一番効果があるのではないでしょうか。
 また、このように「ショック療法」を行う本であるため、生半可な理解で挑むと、自分の持っていた憲法の考えが全部壊されて、再起不可能に陥る恐れがあります。試験直前期などに読むことは、全くオススメしません(経験談)。

 このような注意点はあるのですが、全体として見ると大変に素晴らしい本だと思います。受験生の間で一般的に語られている「通説なるもの」の問題点を的確に指摘し、そうして望ましい思考の方向性を示し、さらなる学習のための参考文献を提示しているので、本書を消化することで憲法に対する理解は確実に深まると思います。
 人によっては、大変に苦痛を伴うものかもしれませんが、乗り越えた先には新しい世界が待っているでしょう(大げさ)。

 各章で紹介されている参考文献がとても参考になります。いわゆる文献ガイドとして使うことも、推奨されるべきだと思います。
 内容は中級者以上向け。結構高度です。じっくりと、腰を据えて、取り組みましょう。

 そして、この本を読んで「???」だった頭が、「うんうん確かにその通り。」となったときが、成長したときです。是非、「その通り。」とうなずけるまで勉強してみてください。

 なお、本書は人権、憲法訴訟論だけでなく、統治の論点解説も入っています。統治まで解説してある本は棟居快行『憲法解釈演習(人権・統治機構)【第2版】』など他にもありますが、結構少ないので、そのような意味でも重要な本だと思います。

 2014年7月に第2版が出版されました。基本的に内容に大きな変更はないようですが、各参考文献がアップデートされ、かつ初版以降の判例・文献が追加されています。この3年の間に新判例が多数出たこと、「参考文献ガイド」としての本書の価値を考えると、これだけでも買い替える価値はありそうです。
 そして、「補論 出題趣旨・採点実感と憲法の学習」と題した章が新たに追加されています。内容は題の通り、司法試験の「出題趣旨・採点実感」をどう読むか、どう答案を書くべきか、司法試験を見据えてどう授業と向き合い、どう勉強していくべきか、といった学生の悩みの種に対する宍戸先生なりの回答が語られています。



木村草太『憲法の急所 権利論を組み立てる』



憲法の急所―権利論を組み立てる

評価:★★☆
一言:「原告主張」「被告主張」「裁判官主張」の仕方を学ぶ

感想
→最近はメディアでの露出も多く、八面六臂の活躍をなされている若手憲法学者、木村草太先生のデビュー作です。

 本書の特徴は、なんといっても、新司法試験と同じ形式の長文事例問題を題材にして、その事例問題に即した解説が「原告側の主張の組立て方」「被告側反論の組立て方」「裁判官として判断の仕方」という順番になされているところです。
 上に挙げた本の中では、唯一の真の「演習本」です(笑)。

 新司法試験の問題は、旧司法試験と異なり、このように各立場からの主張を書かせるものになっています。これは、裁判官目線でのみ問題を解いてきた人にとっては結構難しく、一体どうやって書いたら良いのか悩んでいる人も多いようです。「採点実感」では、「原告側で厳格な違憲審査基準、被告側で緩やかな基準、私見で中間基準」という答案が批判されており、このような思考停止型の主張整理だと評価されません。
 よって、三者同じ立場で、三者説得的な議論を展開し、その上で妥当と思われる方向を示さねばならないのです。これは、そのような思考をしたことがないと、とても、とても難しいことです。

 本書は、まさにそのように三者三様の主張をどう組み立てるか、ということを大変平易な言葉遣いで説き起こしたものであり、まさに新司法試験向けの演習書です。本書が出た当時は、各大学の生協で売り上げ1位を獲得した、ということですが、その通りで、画期的な演習書だと思います。

 参照される他の文献は、議論に必要な限度において引用されていて、議論をとぎれさせることなく追うことが可能です。また、主張は百選掲載判例を基本になされており、学習者への配慮がなされているのも、良いところです。
 また、事例問題については先生ご自身が書かれた参考答案がついています!参考答案をつけることの是非はあるかとは思いますが、受験生としては素直に嬉しいです。答案のイメージをつけることもできます。

 ただ、一応欠点のようなものもあります。
 本書は大変に読みやすく、著者の文章力をひしひしと感じる本なのですが、木村先生ご自身のお考えが前面に展開されている本であり、(それ自体は大変に説得的ではあるのですが)憲法学で了解がある見解が主張されているわけでは必ずしもないようです。いくつかの主張は、(紙面の都合だとは思いますが)十分な理由付け無しに語られており、その背後にある理由付けを無視して本書見解を自分の試験答案で大展開すると、痛い目に合うと思います(予備校の採点者の方が、Web上で「よくわからない答案があると思ったら、急所の劣化コピーだった」のように述べておられるのを拝見したことがあります)。

 もし自分の答案で再現しようと思ったときには、十分なリサーチをしてからの方が良いでしょう。このように、独自説に思える箇所があるという意味で、上級者向けだと思います。文章自体はとてもわかりやすいので、中級者でも読めるとは思いますが、無批判に信じることは危険かもしれません。これは、本書がとても読みやすいがゆえに陥りやすいことだと思います。


 以上、色々と語りましたが、憲法の長文事例問題を取り扱う演習書は本書はとても良く(なんといったって読みやすい!)、原告、被告、私見(裁判官)と三者の立場から解説を組み立てていく手法は一度読んでおいて損は無いと思います。試験の思考の順序、思考方法を理解するために読むことが良いかな、と思います。
 主張の内容自体は、批判的に読んでみると更に勉強になるかも。憲法に自身が無い人は、とりあえず軽く読んでみるだけでも、かなりのものが得られると思います。




大島義則『憲法ガール』



憲法ガール

評価:★★★★★
一言:新司法試験対策の決定版/解説・答案のみならず、参考文献ガイドとしても

感想
→著者は弁護士の大島先生(Twitterアカウントは@babel0101)。憲法が強いことで有名な慶應義塾大学法科大学院を卒業された方です。

 本書の内容の元となったものは、先生のブログ(インテグリティな日々。)に連載されていた同名の記事。ポップな題名とは裏腹に、内容は純粋に新司法試験の解説です。
 本書は、新司法試験の問題を、「ラノベ風に」解説するものです。対話形式で法律論を学ぶ本は幾つかありましたが、完全に「小説」にしてしまったのは(法律界においては)本書だけなのではないでしょうか。そして、帯に書かれた推薦文を読んでびっくりしたのは僕だけではないはずです(笑)。

 小説調の語り口とは対照的に、その内容はとても濃いものになっています。文章を読んでいると、行間から筆者の憲法に対する理解の深さや、その背景思想(法哲学など)が伺え、とても面白いです。

 基本的に三段階審査論に立脚して書かれています。ですが、三段階審査論と違憲審査基準論は(色々なところで語られているように)必ずしも排斥しあうものではなく、答案上は融合することも十分に可能なものです(現に、本書ではその試みが参考答案としてなされています)。三段階審査論自体についての解説も丁寧になされているので、三段階審査なんてわからない、といって敬遠することは全く無いと思います。

 本書の何よりも良いところは、基本的に判例を軸に憲法論を組み立てているところです。まずは判例を参照して権利論を組み立てるので、読んでいて説得力がある議論だな、と感じさせられます。学説は、判例だと理由付けが不十分なときに参照されるようになっています。
 登場人物の会話の中で、試験問題の思考の順番、思考方法、そして解答までが自然な流れとして頭の中に入ってくるように工夫されています。解説の質がとても高く、僕はとても一度では消化しきれませんでした。

 個人的に凄く助かったことは、本書(僕の場合はブログ記事が最初でしたが)を読んだことで、判例の読み方が変わったことです。 今までの判例の「読み方」は、芦部信喜『憲法判例を読む (岩波セミナーブックス)』に代表されるように、判例が違憲審査基準の「ようなもの」を宣言した部分に焦点を当てて読む読み方でした。
 このような読み方だと、判例は今まで明確に違憲審査基準を(芦部説のように)一般化した形で宣言したことは殆ど無いため、憲法の答案では、判例を参照することは相対的に少なくなります。

 ですが、本書は、判例が審査基準のようなものを定立する「前」の、事案を類型化して整理し、憲法上の権利の重要性を宣言する部分(いわゆる「保護範囲」の部分)に焦点を当てた「読み方」をします。そして、実際に重要判例と呼ばれる判例は、この権利を宣言する部分で緻密な論証が組み立てられていることがままあるのです。
 このような読み方をすると、憲法では「使えない」と思っていた判例が、一転して「宝の山」になります。このような転回を経ることができたので、僕は本書にとても感謝しています。

 ブログから、本になるまでに、内容にどのような変化があるかと思って注目していたのですが、(とても良いイラストがついたことは勿論)参考文献と、「ワンポイントアドバイス」が素晴らしいです。この部分だけでも、僕は買った甲斐があったなと思いました。
 参考文献は、石川・駒村・亘理「憲法の解釈」、駒村圭吾「憲法訴訟の現代的転回」、最高裁調査官解説などが中心で、学生が手に入りやすいものが多いです。コラム的に挿入される「ワンポイントアドバイス」は、三段階審査論に対する学生の疑問を、端的に、かつわかりやすく解説するものになっています。

 敢えてケチをつけるとすれば、本書の解説は中心論点を主に行っているため、「他にも細かい論点はあるけれど、」といって省略される論点があります。必ずしも、網羅的ではありません。
 また、小説形式の文章のため、どうしてもかえって読みにくい人は一定数いるようです。好みの問題かもしれません。
 最後に、本書の内容的なレベルは相当高く、内容が高度すぎるがゆえに読んでもわからないことが出てくるかもしれません。


 本書は新司法試験の解説本ですが、網羅性に欠けるところもあったりするので、基本的には、出題趣旨と採点実感を一通り読み、ある程度飲み込んだ後に読むべきかと思います。むしろ、出題趣旨と採点実感を読んだ後の方が、本書の良さをより一層味わえるのではないでしょうか。これから、新司法試験の憲法に関しては、出題趣旨と採点実感と『憲法ガール』が三種の神器になる!と思っています(笑)。

 そして、本書には大島先生(ら)による参考答案がついています!!この答案も素晴らしいもので(こんなの絶対書けません笑)、問題についての検討をし終わった後に読むと一層素晴らしさがわかると思います。解いた後にすぐ読んでも良いとは思いますが、敢えてそこを我慢し、最後に読み込むことをオススメします。
 なお、参考答案は出題趣旨・採点実感に完全に則ったものになっていますので、(上述した解説と異なり)文面審査を含め、ほぼ全論点が網羅的に記載されています。実際の試験では、参考答案のように全論点につき触れる必要は全くなく、解説で論じられている論点を論じることができれば充分に合格点が付くと思います。参考答案を読む際は、それぞれの論点について「重みづけ」をして読むことをおすすめします。(逆に、網羅的ゆえに「重み」が一見するとわかりにくいことが、参考答案の欠点かもしれません。)


 大変に沢山書きましたが、現段階で最も良い解説本だと思います。現在憲法学において喧々諤々に語られている「三段階審査論」と「違憲審査基準論」とを、試験の「答案」としてどのような形に落とし込むか、という疑問について、一つの明確な答えを示している本です。
 受験生が本書のような思考方法を身につけると、益々憲法のレベルが上がってしまって大変だなあ…と思います(笑)。新司法試験を解くときは、是非手元に置いておくのが良い本です。