【商法総則・商行為の基本書】

 新司法試験になってから、会社法以外の商法分野は出題が(ほぼ)択一のみになりました。出題数は商法総則商行為が4問くらい、手形法小切手法が2問くらいです。
 会社法の圧倒的存在感(笑)を考えると、どうしても対策が遅れがちなのが、この分野です。択一プロパー(と考えられている)の統治・家族法に比べると、切り捨てられがちなかわいそうな分野ですね。

 巷でいろいろと言われているように、手形小切手が予備や東大ロー入試で出題された以上、商法総則・商行為も論文で出題される可能性はあります。なんにせよ、全くの白紙で試験(本試験であれ、予備試験であれ、ロースクール入試であれ)に臨むことは避けたいところです。

 個人的には、商法総則・商行為と手形小切手は非常に簡単な出題が多く、コストパフォーマンスが素晴らしく高い分野であると思っています。択一の出題は条文そのままが多く、択一だけ考える方は、もはや条文を素読するだけでも対策としてはアリだと思います。その意味では基本書の必要性は薄いのかも。ただ、僕は個人的にこの分野が好きでして(笑)、たくさんの本を読んできたので(流し読みもありますが…)感想を書いておこうと思います。需要が無いとか言わない!



近藤光男『商法総則・商行為法』



商法総則・商行為法 第6版 (有斐閣法律学叢書)

評価:★★★★
一言:択一対策の定番・必要十分

感想
→最近改版されました。参考書に引用されることも多く、大変スタンダードな基本書です。

 縦書きです。嫌いな人もいるかとは思いますが、個人的には縦書きも結構好きなので、僕はあまり気になりません(笑)。

 内容としては、商法総則・商行為法を理解するため必要不可欠な説明、判例についてきちんと書かれている感じですね。260頁とかなり薄めですが、択一を解くために必要なことは網羅されており、商法にかけることができる時間を考えるとこのくらいがちょうどいいのかもしれません。
 また、文章も大変読みやすく(簡潔で整理されている)、個人的には一番好きな基本書です。

 ただ、かなりコンパクトに書かれているため理由づけや背景説明が簡潔な個所はやはりあります。深いことを求めるのには向かないかもしれません。あくまでも程度問題で、薄くて何も書いていない、というわけではありませんが。
 知識整理や、通読に是非。



落合誠一・大塚龍児・山下友信『商法Ⅰ―総則・商行為』



商法1 総則・商行為 第5版 (有斐閣Sシリーズ)

評価:★★★
一言:もう一つの定番

感想
→Sシリーズの中では評判の良い基本書です。僕の受講した授業での指定教科書でした。
 片手に収まるコンパクトなサイズがいいですね。

 本書は初学者を主たる読者対象としており、記述もわかりやすく、丁寧なものになっています。また、巻末にブックガイドがついているのも良いですね。
 「商法とは」から始まり、適宜1ページ全部を使って図表を挿入して説明がなされている箇所もあるにも関わらず、証券取引と保険取引まで扱っているのがすごいですね。商行為の章では、各分野の入門説明のような感じで、全体の概説がなされています。

 Sシリーズらしく、脚注を使わずに本文のみで説明していくスタイルです。本文と脚注でメリハリをつける江頭スタイルと、好みは分かれうるところでしょうか。

 とりあえずは、本書か近藤商法かを読んでいれば間違いはないのかなあ、といったところです。本書は近藤商法より薄いです。ですが、内容は結構濃密ですね。



森本滋ほか『商法総則講義』『商行為法講義』



商法総則講義
商行為法講義

評価:★★★★
一言:とても丁寧で面白い

感想
→商法の大家、森本滋先生が中心となって執筆された共著です。この二冊のほかに、『
手形法小切手法講義 』『 会社法・商行為法手形法講義 』もあります。

 同シリーズの手形小切手は結構高度な内容で、ちょっと読みにくい箇所もあるのですが、本書2冊は大変読みやすく、かつ分かりやすいです。通常は総則・商行為として一冊で書かれる分野を分けて書いているため、内容がより深く、丁寧に記述されているのが良いですね。情報量は多いと思います。

 本書は脚注もうまく使いながら、この分野の背景から発展まで、非常にわかりやすく、面白く解説がなされています。

 特徴は、なんといっても、周辺法分野との連関が強く意識されており、随所に民法、手形法、金商法などとの関連記述があることです。「商法」という他分野とのつながりの強い分野を立体的に記述したい、という編者のねらいが伝わってきます。関連記述は多少他の法知識がないと厳しいものはありますが、この記述が本書をより面白くしていることは間違いありません。僕は大変興奮しました(笑)。

 分冊とはいってもそれぞれは非常に薄いので、通読に困る厚さでもないですが、やはり近藤やSシリーズよりは厚いです。ここは、好みが分かれうるところだと思います。

 近藤商法よりもう少し深く知りたい、という方にはおすすめです。記述もわかりやすいので、深いからといって難しいこともありません。是非読んでみてください。




弥永真生『リーガルマインド商法総則・商行為法』



リーガルマインド 商法総則・商行為法


評価:★★☆
一言:読みやすいレイアウト

感想
→こちらも商法の大家、弥永先生の基本書。とても薄いです。通読向きですね。

 横書き、二色刷りで、レイアウトは非常に読みやすくなっています。近藤商法や、Sシリーズが淡泊すぎて嫌だ!という人は本書をどうぞ。内容に関しては、かなり薄いため、近藤・Sシリーズなどと大差はないと思います。文章の読みやすさや、レイアウトで決めるのもアリだと思います。




伊藤真 編『商法・手形法小切手法』


 
商法(総則・商行為)・手形法小切手法〈第2版〉 (伊藤真試験対策講座)  

評価:★★★
一言:本書だけで十分かも

感想
→シケタイシリーズの商法・手形法です。この両分野が一冊にまとまっているのは、受験生的には便利です。そして、結局択一を中心として基本的な事項しか聞かれないのであれば、本書を一冊買うのが一番良いのかもしれません。本書は4,000円と結構高価ですが、商法と手形法の二分野がまとまっていることを考えると、安いのかも。

 シケタイらしく、初めて読む人にもわかりやすく書かれています。図表が多いのも良いですね。下手に学者の本を読むよりは、本書を読んでおけばハズレはないでしょう。

 ただ、難点を挙げるとすれば、やはり分厚すぎることでしょうか。シケタイは編集方針が「大は小を兼ねる」方向に向かっているらしく、とりあえずなんでも書いておこうという感じが透けて見えます。辞書的に使うのであれば問題ないですが、択一の前に知識を整理したい人には、この分厚さはかなり苦痛かと思います。

 もし本書のみを使いたいのであれば、条文知識を中心として、必要箇所と不必要箇所とを分ける作業が必要でしょう。





関俊彦『商法総論総則』



商法総論総則

一言:商法「総論」・意欲的な体系書

感想
→『
金融手形小切手法 』の著者として注目していた、関俊彦先生の本を見つけたので購入しました。

 商法の本格的な体系書としては、鴻常夫・大隅健一郎・田中誠二・西原寛一・江頭憲治郎などがありますが、江頭商取引法を除いて、どれも昭和の著作で、新しいものが無いのが現状です。また、新しいものでも共著が多いですね。
 本書はこのような現状に一石を投じるべく書かれたものです。はしがきだけ読んでも、著者の熱意が伝わってきます。

 内容としては、商法総則分野のみを、300頁超を使ってしっかりと論じています。論じる項目が増えたというよりは、他の商法分野の「総則」であることを強く意識し、深く深く論じた、という方が近いと思います。

 択一試験対策としては(商行為法が無いですし)あまり利用しないかとは思いますが、副読本として、興味のある方はどうぞ。





江頭憲治郎『商法総則・商行為法』



商取引法 第7版 (法律学講座双書)

一言:実務のための商法

感想
→商法分野においては、本書が最終到達目標だと思います。実務家からも、学者からも信頼が置かれている体系書です。(伊藤先生のブログにて「信頼できる種本」と言及されていました。)

 商法が実務ではどのように運用されているのか、という観点から網羅的に商取引が論じてあります。決して「商法」ではなく、「商取引」について論じてありますので、(『株式会社法』とは異なり)本文だけ読むと択一対策に…なりません。全然なりません。ここは欺されぬよう。大は小を兼ねると言いますが、本書だけで商法総則・商行為を頑張るのはちと難しいかもしれません。

 実際の商取引について、どのような法規制がしかれているのかを知りたい人、商法が好きな人は最終的には本書に辿り着くと思います。決して、択一対策の基本書ではありませんので、要注意。



鴻常夫『商法総則』



商法総則 (法律学講座双書)

一言:「商法」の到達点

感想
→江頭『商取引法』をはじめ、弥永、森本、Sシリーズなど全ての基本書で引用され、「必読文献」として名前が挙がっている体系書です。著者、鴻常夫は元東京大学教授で、現在は既に逝去されています。本書も1999年を最後に改訂されていません。

 今でも体系書として名前が真っ先に挙がるからもわかる通り、「商法」という学問がどのようなものかということについて、一つの体系を作り上げている本だと思います。1999年と約15年前の書籍ですが、その議論は今でも鮮やかにうつりました。

 本書の特長は、実定法たる商法の説明に入る前に、約50頁を割いて「商法学序論」として学問としての商法を説明しているところです。試験的に直接関係あるような記述ではありませんが、商法の位置づけなどについて書いてあり、学問としての商法の一端を垣間見ることができると思います。

 本書以前からそうなのかもしれませんが、現在ある商法総則の基本書と、章立てなどがほぼ同じであり、本書が一つの基準というか、完成形になっているのだと思います。記述は理論的で、とても明快で整理された議論です。読んでいて、とても気持ちが良かったです。

 はじめの50頁だけでも読む価値があると思います。「商法」に興味がある人は読んでみることを勧めます。