民事訴訟法の基本書選びは、刑事訴訟法とはまた違った意味で難しいですね。一級の先生方が素晴らしい(かつ分厚い)本を沢山書かれているので、適切なガイドがないと基本書を選ぶだけで日が暮れてしまいます。
 かくいう僕も、学部の授業で新堂民訴が指定されたことから始まり(ここで既に歯車が狂っている様な気がしますが)、手当たり次第に本を買いあさってきました。お金を無駄に使ってしまったのは民訴が一番かもしれません。

 何冊も買う必要は全くありません。組み合わせ方はいくつかあると思いますので、何か自分に合った本を探してみて下さい。僕の感想が選ぶ手助けになれば、幸いです。


【民事訴訟法の基本書】

 入門書的なものから、順々に深みにはまっていきたいと思います。
 改訂情報(アルマ)を追記しました(6月29日)。


中野貞一郎『民事裁判入門』


 
民事裁判入門 第3版補訂版

評価:★★★★
一言:名著。一通り勉強した人が読むと尚良し

感想
→司法試験受験生的には『新民事訴訟法講義 第2版補訂2版』『民事執行・保全入門 補訂版』などで有名な民訴法の大家が著した入門書。「民事裁判」とある通り、裁判の後の執行段階などはこの版(正確には3版)から無くなっています。基本的に、民事訴訟法を手続きの流れにそって説明しています。

 まず、文章自体が名文です。とても読みやすく、かつ内容が整理されています。そして、「入門」と銘打ってはいますが、いくつかの論点については意外と掘り下げて論じてあり、読んでいて飽きなかったです。

 全くの初学者は論点的な箇所を軽く読み飛ばして、全体像をつかむように読むと良いでしょう。前述の通り文章がとてもわかりやすく書かれているので、初学者でも(多分)それほど困ることはないかと。

 そして、一通り民事訴訟法を学習した中級者以上が本書を読めば、そのわかりやすさもさることながら、一文一文に込められた意味の深さに驚きと感動を覚えることでしょう(大げさ)。潮見『入門民法(全) 』のように、読めば択一対策になるタイプの「入門書」ではないですが、頭の中を整理するのに良いと思います。




山本弘・長谷部由起子・松下淳一『民事訴訟法』(有斐閣アルマSpecialized)



民事訴訟法 (有斐閣アルマ)

評価:★★★
一言:完成度は高い・一冊目でも良いかも

感想
→有斐閣アルマシリーズの民事訴訟法。著者も一級の学者たちで、よくまとまった良書だと思います。

 同『刑事訴訟法 第3版』のように、中立的な立場から民事訴訟法の全体が解説されています。分量との関係で掘り下げが少し浅い程度で、「基本書」として使える程度には各論点や手続に触れており、安心のアルマシリーズといったところ。

 初学者を意識した、と「はしがき」で触れられている通り、なるべく難解な言葉を使わず、クロスリファレンスを徹底したつくりになっています。民事訴訟法の「円環的構造」(by三ヶ月章)を理解するには、この配慮が嬉しいですね。

 一冊目として使っても良いと思いますが(僕は本書が一冊目でした)、よくまとまっているので(管轄など純手続的なところにもしっかりと触れている)、むしろ中級者以上の人が総復習としてざっと通読するのにも良いかもしれません。

 第2版がもうじき(9月ごろのようです。)出版されるとの情報があります(2013年6月29日時点)。今買うつもりの人は少し待ってみてもいいかもしれません。



和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法』



基礎からわかる民事訴訟法

評価:★★★★
一言:初学者はこれで決まり!

感想
→『司法試験論文本試験過去問 民事訴訟法 (解説講義・実況中継)』『民事訴訟法から考える要件事実』『基礎からわかる民事執行法・民事保全法 第2版』などで有名な和田先生による、民事訴訟法の基本書です。遂に出た、という感じでしょうか。和田先生についてはこのブログでも何度か触れており(こちらこちら)、注目していたのですが(実は和田先生の本は全部持っています(笑))、やっとブログの中で本書に触れることができました。

 「基礎からわかる」の通り、民事訴訟法について具体例と図表を多用しつつ、基礎からしっかりと説明してあるところに本書の特長があります。本書は結構重量感がありますが(600頁強)、具体例と図表のため内容は思ったより濃密ではありません。

 本書の良いところは沢山あるのですが(笑)、いくつか挙げておきます。

 判例の立場がいまいちはっきりせず学説が錯綜している民事訴訟法について、「実務ではこうなっている」「実務でこのようなことが問題となることはほとんどない」など、実務的な観点をきちんと明示してくれているところ。和田先生は東京地裁判事の経験があり、そのときのエピソードを交えて語ってくれるため退屈になりがちな手続面も面白く読めます。
 書証についてかなり厚く触れられているなど(二段の推定や、文書提出命令)、手続面における実際的な問題意識が反映されているのも面白いです。

 かといって決して実務一辺倒ではなく、各学説の解説も行っています。一人一説とも言える民事訴訟法の世界ですが、それを大まかに肯定説・否定説・折衷説のようにまとめて説明しており、学説整理してあるのも◎です。

 僕がすごく助かるなと思ったのは、解釈論の根拠を述べる際、条文に基づく理由付けを重視し、かつ根拠は3つ程度にまとめている(1.~2.~3.~のように番号を振って説明してくれている)ところです。「答案に再現すること」を非常に意識した書きぶりになっているのですね。受験生のためのテキストとしてこれほど助かることはありません。

 もちろん、図表と具体例が多用してあって、民訴が「眠素」にならない(なりにくい?)ことも良いところです。

 ここまで褒め殺しを続けてきましたが(笑)、いくつかそれ以外のことも挙げておきます。

 図表を多用し、具体例を挙げ、学説整理をし、かつ頁数は600頁強と民訴にしてはそこまで分厚くない(600頁で分厚くない、との評価が下るあたり、民訴の怖さがわかりますね…笑)ということは、必然内容が薄くならざるを得ません。和田先生本人が「これでも限界まで削った」と仰るとおり(辰巳での講演会にて)、触れられてある論点はかなり絞ってあり(といっても司法試験合格には十分だと思いますが)、本書に辞書的な役割を求めるのは難しいかもしれません。本書に載っていることは基本的な事項であると理解して良いと思います。

 もう一つ、言葉の「定義」が明確に(定式化して)書かれていない箇所があることが挙げられます。一番の欠点はこれでしょう。

 民事訴訟法の学習において、専門用語の「定義」は他の科目以上に重要です。「訴訟物」「請求」「訴え」「口頭弁論」「処分権主義」「弁論主義」「既判力」などなど、およそ日本語の字面だけ見ていては理解できない言葉が大量に出現する民事訴訟法ですが(しかもいくつかの異なった定義を持つ言葉もある)、それを上手く理解していくためにはそれぞれの定義を覚えることがおそらく必須です。
 大抵の基本書では、まず定義規定から始まり、その後解説が続くのが普通ですが、本書は定義規定の文言が複数箇所に散らばって書かれていることがあり、「○○とは、~である。」という風に定式化しにくくなっています。
 自分で定義規定を作ることが出来ればよいのですが、ある程度学習が進んで本書を読む場合、言葉の定義だけは他の定評ある基本書の表現を使った方が良いかもしれません。

 あと一つ。率直に言って、本書はほぼ予備校本と言ってしまっても良い側面を多分に含んでいます。(もちろん実務家兼学者の和田先生が著されているので、内容の正確性は予備校本の及ぶところではありませんが。)

 ですから、本書を読んで何か新しいことがわかる、ということはあまり無いと思います。感動するタイプの本では無いかも。皆が知って当然のことが当たり前に書いてある本です。中級者以上の人が本書を(大きな期待を持って)読むと肩すかしを食らうかもしれません。

 最後は色々と愚痴を書いてしまいましたが(笑)、初学者から上級者まで広く使える良書だと思います。分からないことがあったらまず本書を読んでみると良いでしょう。僕も基礎的事項で疑問に思ったこと(定義以外)や、手続的なことは本書をまず参照するようにしています。手続面のお話は『民事訴訟第一審手続の解説』より良いかもしれません。読みやすいので。

 初学者は是非本書を勧めます。中級者以上で基本書選びに迷っている方がいれば、どうぞ。他に予備校本などをお持ちの方は要らないかもしれません(予備校テキスト、予備校本の不正確さが嫌な人はこちらが良いでしょう)。
 ちょっと長く書きすぎましたね(笑)。

 

司法研修所監修『4訂 民事訴訟第一審手続の解説―事件記録に基づいて―』


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4訂 民事訴訟第一審手続の解説―事件記録に基づいて―

評価:★★☆
一言:事件記録に寄り添いすぎ?

感想
→司法研修所が出版している手続解説です。『刑事第一審公判手続の概要』はとても良い解説書でしたが、本書は多少使いにくいかもしれません。
 というのも、刑事手続と異なり民事手続は事件ごとに多様性があるせいか、本書は元になる事件記録の解説に終始しすぎており、「一般的な民事訴訟手続」をイメージしにくくなっているからです。

 択一用に本書を使うことは不可能ではありませんが、少し難しいかもしれません。


 

裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟法講義案』


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民事訴訟法講義案(再訂補訂版)

評価:★★★☆
一言:公式のテキスト・定番

感想
→有名な基本書が一癖も二癖もあるものばかりである民事訴訟法において(笑)、とりあえず本書を選んでおけば間違いはないだろう、ということでユーザーが多い本です。実は著者は『講義 民事訴訟 第3版』『解析 民事訴訟 第2版』(どちらも改版されました)の藤田先生。裁判所職員のためのテキストということで、完全に実務に沿った立場から書かれています。

 裁判所職員が民事訴訟を学ぶためのテキストなので、「論点」はほぼ触れられず、手続的解説が多くを占めています。司法協会の本らしくレジュメ調のレイアウトで、個人的には見やすくて好きです。

 論点的な深い掘り下げがほぼ無いので、本書一冊で論文を書くことは難しいかも。手続面の解説は簡潔かつ明確で素晴らしいと思います。定義規定とかは本書を参照すると良いかもしれませんね。しっかりと書かれています。司法協会の本はこういうところに信頼がおけますね。迷ったら本書を読んでみるのもアリだと思います。




伊藤真 編『民事訴訟法』



民事訴訟法 第3版 (伊藤真試験対策講座)

評価:★★★
一言:分かりやすい箇所も多いが、不正確なのが…

感想
→シケタイシリーズの民事訴訟法。本書も中々分厚いです。

 個人的には、同シリーズ『刑事訴訟法』よりは使いやすいです。少なくとも、記述が根底から破綻している箇所は無いです。

 本書の良いところは、言葉の定義がしっかりしているところ。ほぼ全ての専門用語について、各章の冒頭に定義が明確に書かれています。
 あと、分厚いだけあって「論点」をほぼ網羅しています。こんな論点もあったのか、ということが分かるのは予備校本の良さですね。


 良くないところは、とにかく記述の不統一・不正確さがあるところでしょうか。本書は上田『民事訴訟法』と『民事訴訟法講義案』をベースに切り貼りして構成されているのですが、基となる上田民訴が悪いのか、記述者が悪いのか、同じ頁の中で異なる言葉遣いがなされていたり、同じ言葉を断りもなく違う意味で用いていたりします。
 文章自体が読みにくくはないと思うので、初学者がもし本書を使うのであれば、細かいことは気にせず読み進めるのが良いと思います。

 あと、旧司法試験の一行問題を引きずりすぎているように感じます。上手くまとめられているといえばそれまでですが、一行問題で問われたら書くべき内容を羅列していると思える箇所だらけで、少しくどいです。新司法試験になった今でもなお、一行問題の重要性はあると思ってはいますが。

 本書だけだとやはり怖いので、メインに据えるとしても記述の正確性を担保するサブテキストは必要です。講義案や伊藤眞などと併用しましょう。