【刑事訴訟法の基本書】

 文字数がオーバーしてしまったので、記事を二つに分けました。『検察講義案』と試験対策講座を追記しました(3月1日)。
 検察講義案の平成24年版が発売されたので、追記しました(5月10日)。
 リーガルクエスト刑事訴訟法のレビューをいとこん氏(@cdplayer19)が書いてくださったので、リンクしました。




司法研修所検察教官室編『検察講義案』(法曹會)


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検察講義案平成24年版

評価:★★★☆
一言:択一用のレジュメ・言葉の定義確認にも

感想
→司法研修所(法曹會)から出版されているもの。ネット上では「隠れた名著」と評されている本書ですが、手に入ったので読んでみました。

 「講義案」というだけあって、解説書というよりは詳しいレジュメ、といった印象。検察官の視点からみた刑事手続全体(検察機構から、捜査・事件処理(公訴提起含む)・公判・上訴・執行・少年事件等の特例まで)をその対象としています。

 特別なことが書いてあるわけではないので、本書を読んで何かが「わかった!」という状態になることは少なそうです。

 ですが、体系がしっかりと整理されており、かつレイアウトも非常に見やすいです(太字・インデントなど工夫されています)。また、章の冒頭には必ず言葉の定義や位置づけがビシッと書かれており、頭の中の知識が綺麗に整理されていく感じがしました。定義が明確に書いてあるのは嬉しいですね。司法研修所編集なので信頼性もバッチリですし。

 なお、公判部分は『刑事第一審公判手続の概要』と同じ感じです(やや『第一審』の方が詳しいかも)。本書は捜査から上訴まで書かれてありますが。

 本書を使って刑事訴訟法を学ぶというよりは、一通り学んだ人が知識を整理するためのテキストです。体系(とレイアウト)がしっかりしているので、書き込んだりしても有意に使えるでしょう。判例も一応載っており、手続面はしっかりと記載されているので択一対策にはピッタリかも。

 択一に出題される(のに中々まとまった記述がない)少年法についても最後にまとめられており、その箇所が個人的には一番嬉しかったかもしれません(笑)。





伊藤真 編『刑事訴訟法』(試験対策講座)



刑事訴訟法 第4版 (伊藤真試験対策講座10)

評価:★★
一言:分厚い!

感想
→シケタイシリーズその10、刑事訴訟法です。つい最近、第4版が出版されました。

 シケタイシリーズは科目ごとに結構質のばらつきがあるのですが、本書はあまり良いものではありませんでした。

 なによりも分厚すぎます。確かに、読んで分かるテキストを目指すのであればこのように分厚くなってしまうのもやむを得ないのかもしれません。
 しかし、学習者が予備校本に求めているものは星の数ほどある学説の平坦な解説でしょうか。そうではなく、通説判例(もしくは予備校説)の理解(答案に再現できる程度)につきるのではないでしょうか。それぞれの学説を知りたければ原典に当たればよいのであって、わざわざ予備校本で知る必要性はないように思えます。

 気軽に線が引けて書き込みもできるシケタイは重宝しているのですが、最近のシケタイはページ数が増加の一途を辿っており、方向性を誤っているのではないかなあと(個人的には)感じている次第です。

 長々と書きすぎましたかね(笑)。内容の紹介に移ります。

 捜査・公訴については、所々記述に混乱が見られます。本記事で紹介した幾つかの基本書と比べると、明らかに定義規定がおかしな箇所(「鑑定」と「鑑定処分」など。『検察講義案』が明快)や、判例がある程度固まっており答案上も判例に従うことが良いと思われる論点について、学説を是としている箇所などがあります。紹介されている学説が少し古い箇所が散見されることもマイナスですね。
(記憶で書いておりますので間違いがありましたらコメント下さい。)

 対して、証拠法分野は論点が整理されており、使いやすかったです(特に伝聞例外の一連の論点群)。こんなに沢山「論点」があるんですね。普段は当然のように流していた部分が実は論点だった、という発見が多かったです。

 必要な情報とそうでないものとをしっかりと分けることが出来れば有用だと思います。もし一冊目に本書を選ばれるのであれば、本文に拘りすぎずに(誤解を招く表現がある危険がありますので)読み流すと良いでしょう。論点の所在を確認するのには良い本です。



これ以降はきちんと読み込んだわけではなく、ぱらぱらめくっただけですので軽く紹介するにとどめておきます。

上口裕『刑事訴訟法』



刑事訴訟法[第3版]

一言:現在シェアを伸ばしている模様

感想
→「新司法試験用に書かれた」本です(はしがきより)。著者は南山大学教授。有斐閣Sシリーズも書いておられます。

 司法試験用に書かれたとある通り、通説判例の解説に徹しています。基礎的な原理から制度を解説していくところに特長があるようです。証拠法や訴因制度はわかりやすかったです。

 また、頻繁に改訂されており著者の熱意がうかがえます。改訂のたびに厚くなっているみたいですが(笑)。





宇藤・松田・堀江『刑事訴訟法』(LEGAL QUEST)



刑事訴訟法 (LEGAL QUEST)

一言:スタンダードとなるか

感想
→ついに出た!という感じです(笑)。リーガルクエストシリーズの刑事訴訟法ですね。著者は関西の教授陣。
 リーガルクエストシリーズの方針通り、通説判例の解説をしっかりと行っています。判例がとりわけ大事な刑事訴訟法においては、とてもうれしい配慮です。

 脚注での学説引用はないようですが、重要判例については頁を割いて説明してあります。まさに出版されたばかりであり、議論が新しい(最近の論文を前提とした議論がなされている)のも嬉しいですね。所々に執筆者自身の主張(通説的でないもの)が見られる箇所があるという意見も。全く支障はないと思いますが(笑)。

 たくさんの人が仰っている通り、堀江先生執筆部分の証拠法は大変素晴らしいと思います。

 本書は、実務家の先生からも注目を集めているようです。雑誌『法学教室』392号(2013年5月号)に始まった岡・神山「刑事弁護の基礎知識」という連載の中で、本書の証拠法部分が参考文献としてよく参照されています。(執筆者曰く、刑事訴訟法326条の「同意」についての法的性質の議論は、本書に紹介のある大澤学説が通説化するのではないか、とのこと。)

 個人的にはアルマの上位互換だという印象を持っています。本シリーズが好きな人は「買い」だと思います。詳しい書評はこちらのリンクに任せようと思います。→legal high!(仮)



田口守一『刑事訴訟法』


刑事訴訟法 第6版 (法律学講義シリーズ)
刑事訴訟法 第6版 (法律学講義シリーズ)

一言:昔からの「スタンダード」

感想
→予備校本にも、「通説的見解」としても、よく引用される田口教授の基本書です。各論点につき網羅的に触れてあります。ちょっと薄いかなと思うところもありますが。
 簡潔な議論がなされていますが、少し議論があいまいかなと思う部分もありました。