【基本書】

 と、いうことで基本書からです。会社法も初学者泣かせな法律ですよね。条文は他の法律と比べてやたらと長いし、技術的な条文も多いし、馴染みのない計算も出てきますし………
 僕も、学部の授業(商法1部・2部)で会社法を初めて学んだときは会社法が大嫌いでした。今ではそれほどでもありませんが。
 僕が会社法を好きになった理由は、たぶん、他の科目と比べて条文にしっかりと書いてあるからでしょうね(凄く大事なことが書いてなかったりしますが…)。会社法を学ぶときは、とにかく条文とにらめっこをして複雑怪奇に見える文言を解きほぐすことが大事だと思っています。

・大隅ほか『新会社法概説』とシケタイ会社法を追記しました(9月27日)。
・江頭『株式会社法』第5版を追記しました(8月4日)。
・会社法改正に伴う改訂情報を追記しました(2015年4月18日)。



伊藤真[編]『会社法』(試験対策講座)[第2版]



会社法 第2版 (伊藤真試験対策講座 9)

評価:★★★
一言:良い出来

感想
→シケタイシリーズの会社法です。
 シケタイは、このブログでもたくさん書いてきましたが、会社法は他の科目に比べてとても良い出来だと思います。本書の種本は神田会社法のようですが、その記述をそのまま使いつつ、適宜補充がなされています。

 旧商法の時代から勉強していた人向けにか、改正前商法と現行会社法との違いが頻繁に書かれていますが、基本的には無視しても構わないでしょう。神田会社法が素晴らしいからだとは思いますが、本書の記述にブレは少なく、それなりに信用しても良いと思います。

 本書は、2009年に第2版が出版されてから改訂がなされていませんが、試験との関係ではそこまで影響はないでしょう。ただ、もう4年近く経っているので、適宜自分で改正のフォローをする必要がありそうです。

 初学者の方は本書から始めるのもアリだと思いますが、今となっては古すぎるかなとも思います。




伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征『会社法』(LEGAL QUEST)[第3版]



会社法 第3版 (LEGAL QUEST)

評価:★★★★
一言:初学者から使える・安心安全のリーガルクエスト

感想
→今、まさに「脂がのっている」研究者たちの手による会社法の新しいスタンダード・テキスト。著者は有斐閣法律学講演会「もっと会社法を好きになる」(以前の記事、といっても何も書いていませんが)の講演者でもあり、精力的に活動なさっておられます。
 他のリーガルクエストシリーズと同じく、近年の有力説の立場から通説判例が解説されています。
 
 初学者から使えるテキストを目指したとある通り、序章に「本書の読み方」が書いてあり、会社法の条文との対照表があり、本文と発展事項(コラム)が分けられており、とっつきやすいことは確かです。本書から読み始めれば、少なくとも、条文の見た目ほどには拒否反応は出ないのではないでしょうか。

 会社法の条文や制度の仕組みを、その究極的な趣旨(利害関係者間の利害調整)から解き明かしてくれるため、非常に分かりやすいです。章の始めに制度趣旨を解説し、その後は判例を元にしたケースメソッド方式で具体的事案における会社法の規律を解き明かしてくれます。

 全体的に通説・判例に立っており、まずは本書を選んでおいて間違いは無いと思います。章の終わりに練習問題がついているのも学習者には嬉しいところ。
 判例には百選の番号と『商法判例集(第4版)』の番号が振ってあります。ケースメソッド方式なので、判例を読みつつ本書を読み進めていけば理解は深まるでしょう。

 図表や書式も豊富に掲載されています。「教科書」としての心遣いが良いですね。また、全体的に株式会社の解説を中心として、司法試験でよく問われる箇所、近年判例の蓄積によって急速に議論が進んでいる企業買収etcの箇所は厚く論じられており、まさに司法試験受験生を意識した作りになっています。本書はそこまで分厚い基本書ではありませんが、このように記述に濃淡があるため、厚さの割には内容は濃いです。

 欠点を挙げるとすれば、コラムetcにおいてかなり発展的な内容まで踏み込んでいるのに、前述のように本書は厚くないため、「言葉足らず」になっている箇所が散見されるところでしょうか。この一冊で通説判例から有力説まで欲張って全部解説しようとした結果、行間ができすぎ、何度読んでも意味がよくわからなくなっているところが何箇所かあります。初学者の方は、まず細かい疑問を無視して全体像をつかむことから始めた方がよいでしょう。読んでいて感じた疑問点は、本書をいくら読んでも解決しない疑問点かもしれません。

 かなりざっくりとまとめられているところもあり、「通説」として説明されているものが果たして通説的と言えるかは若干怪しいかなと思うところも。学習が進んできたら、そのような目で本書を読んでみると良いかもしれませんね。

 なお、読んでも意味がわからない発展的な疑問は、脚注に引用されている論文と江頭『株式会社法』を読んだら氷解したので、もし分からない方がいらっしゃれば是非読んでみて下さい。(個人的には田中先生執筆箇所でそのような「筆が滑った」ところが多かったようにも…笑)

 色々と書きましたが、総じておすすめできる基本書です。本書のみでは少し足りないと思いますが、会社法が苦手という人は一度試してみては。

 ついに第3版が出ました!といっても,改正部分はまだ議論の蓄積がないため,改訂部分はそこまで厚いものではありません。


 

神田秀樹『会社法』[第16版]



会社法 第16版 (法律学講座双書)

評価:★★★☆
一言:毎年春の恒例行事、神田会社法改訂・択一向け

感想
→東京大学教授、神田秀樹先生の体系書です。毎年改訂を重ねています。版を重ねる事に分厚くなっていく基本書が多い中、本書は一定の薄さを維持している貴重種といえるでしょう。

 ページ数はかなり少ない方だと思います。この薄さが一番の特徴と言ってもよいかも。本文と脚注とで本書は成り立っていますが、本文にはほぼ条文がそのまま載っているだけです(語弊あり)。重要な事項は脚注に書いてあり、求めている記述を探すのにはちょっと苦労するかもしれません。

 コンパクトゆえ、初学者がまず本書を読んでも??となる可能性が高いです。ですが、ある程度学習が進んでから本書を紐解くと、非常に簡潔に会社法のエッセンスがまとめられていることに気づくはずです。そのような意味で、中級者以上がさっと通読するのに向いている基本書と言えます。
 理由付けも簡潔であり、答案に使えます(たぶん)。脚注に重要事項の解説があるため、脚注もしっかり読みましょう。個人的な話で恐縮ですが、僕は結局、本書をメインにしています。



大隅健一郎・今井宏・小林量『新会社法概説』[第2版]



新会社法概説 第2版

評価:★★★☆
一言:隠れた(?)名著かも

感想
→著者の一人である大隅健一郎は、元最高裁判事として有名な方です。本書の元ネタは、彼が京都大学で行った講義ノート。大隅元判事は平成10年に逝去されており、そのお弟子さんである今井、小林両先生方が新しい会社法に対応させる形で全面的に改訂を施しています。

 章立てや文章の書きぶりはオーソドックスな教科書であり、学習に使いやすいです。本文で基本的なことを記述し、発展的なことや、説が分かれている論点はおもにページ下の脚注にまとめられている、というスタイル。非常に読みやすいです。

 昔の学者が書いた文章は、今の本と少し違う趣があって僕は好きなのですが、本書も、冒頭の総論部分ではそのような感じを味わうことができます。
 それと、総論部には商法・会社法の改正の歴史がまとめてあり、司法試験のみを考えると不要ではありますが、会社法でレポートを書いたりする際、役に立ちます。配慮が行き届いている「基本書」であると思います。

 内容面ですが、読んでみて驚きました。まさに「簡にして要を得た」といえる記述が並んでいます。簡潔に思える本文には、条文に従った仕組みを説明する箇所と、論点的な箇所とが読みやすく整理されており、解釈が分かれる箇所にも丁寧に気配りがされています。脚注は言わずもがな、本文中でも理由づけはきちんと書かれており、論文試験にそのまま書けるような記述が多い印象を受けました。
 脚注では、多少高度な論点と、説が大きく分かれている論点の説明がなされています。それと、量はそれほど多くありませんが、重要な学術論文の紹介がいくつかなされており、学習者にはとてもありがたいです。
 また、著者が判事であるからかもしれませんが、本書の採る説は概ね判例・通説であり、穏当かつ説得的な記述がなされていることも、本書の良いところです。

 あえて欠点を挙げるとすれば、本文の文章が簡潔に書かれているため、ともすれば「論点」を読み飛ばしてしまう危険があるということでしょうか。神田会社法にも言えることですが、一文一文に意味が凝縮されたテキストだと思います。丁寧に読むことを奨めます。

 情報量も多く、この一冊で必要十分といえるかもしれません。初学者でもこの本から初めてよいかと思います。リーガルクエストに比べると、少し退屈ではありますが。




葉玉匡美ほか『新・会社法100問』



新会社法100問 【第2版】

評価:★★★
一言:立法者見解を知ろう

感想
→会社法を立法した葉玉先生を中心とした実務家の方々の手による「問題集(の形をした解説書)」です。

 会社法の体系に従い各種資格試験の過去問が100問掲載されており、その解答という形で条文の解説がなされています。
 問題の解答が並んでいるため、答案の書き方を学べる!と思いきや、「会社法を趣旨からわかりやすく解説する」というコンセプトの下に書かれているため、「答案の形式」を学ぶというよりただの基本書の記述のようになっています。たしかにナンバリングがなされ、法的三段論法で書かれてはいますが、かなり詳しく書かれており、答案にそのまま本書の記述を再現するのはちょっと難しいでしょう。

 答案集としては若干詳しすぎて使いにくく、かといって基本書にしてもどこか物足りない…という「帯に短したすきに長し」な本です。ですが、立法担当者の見解(学説からは一部コテンパンに叩かれていますが)をしっかりと知ることが出来るという意味で有用な一冊だと思います。あと、条文索引(条文と論点の対応表)が結構使えます。

 なお、本書には知識整理のための一問一答が1200問掲載されており、これも使えると思います。



江頭憲治郎『株式会社法』[第6版]


株式会社法 第6版
江頭 憲治郎
有斐閣
2015-05-01



評価:★★★★
一言:最終的な目標はここへ

感想
→会社法分野におけるもっとも権威ある体系書です。本来は実務家の方々をも想定して書かれており(「はしがき」より)、試験的には関連性の薄い記述も多いですが、試験対策としても使えると思います。

 他の基本書と比べて圧倒的な重みと厚みを誇るため、通読は厳しいです。辞書・参考書として使うのでしょう。僕も辞書として使っています。

 文章はとても読みやすく、厚さの割に使いやすいです。本書も本文と脚注から成っていますが、本文はかなり簡潔。ほとんどの論点的事項は脚注に書いてあります。本書の見解が全て通説というわけではありませんが、結論に至る理由はしっかりと述べられており、本書を読めば大抵の疑問は解決すると思います。
 ただ、章立ての順番や文章の運びなどが標準的な基本書とは少し異なるため、慣れるまでは難しいかもしれません。

 上記リーガルクエストとの相性がとても良く、リーガルクエストを読んだ後に本書に進めばもう怖いもの無しなのではないでしょうか。辞書的に使うことが多いと思うので、演習書をやりつつ疑問点につき本書を参照する、ということを行っていけば会社法に対する理解が深まること間違いなしです。

 欠点は、まず、ここまで分厚く、網羅的に論点について触れられている本書ではありますが、一つ一つの論点についての言及は思ったより薄いということ。有名な論点であっても、理由づけはかなり簡潔に済まされていることが多いです。
 もう一つは、索引が索引の役目を果たしていないことです。本書は内容の重厚さの割に巻末索引が非常に粗く、索引に目的の言葉が載っていないという(恐ろしい)ことが多々あります。その代わり(?)目次はしっかりしているので、目次から欲しい記述を探しましょう。むしろその方が体系的思考が身についてかえって良いかもしれません。

 第5版補正板ではなく、第6版が出版されるようですね。




 

前田庸『会社法入門』



会社法入門 第12版

評価:★★★
一言:分かりやすい記述

感想
→彼の『手形法・小切手法入門』を読んでその記述のわかりやすさと面白さに大変感銘を受けまして、本書も読んでみました。

 本書は「入門」と銘打ってはいますが、分厚さから分かるとおり純粋な「入門書」ではありません(これは手形小切手入門にも言えますが…笑)。
 入門書ではありませんが、初学者でも十分に使用できるわかりやすさです。脚注を一切使わず、ひたすらに本文のみで会社法を解説しています。分厚いので、基本書としても十二分に使えるでしょう。通読には骨が折れますが、条文を引きつつ、しっかり読み込んでいくのが良いかと思います。



 次は【判例集】【演習書】です。