【刑事訴訟法の基本書】

 「刑事訴訟法には基本書が不要である」説が有力に唱えられていますが(笑)、最近新しいものが出版されたこともあって、また基本書に注目が集まっているのかもしれません。
 若干エラそうに語っている箇所も散見されますが、どうかご容赦ください。
 ここにある本(特に田宮・松尾・安冨)を読み込みましたので、文章を修正しました(9月12日)。最近流行りのLQや上口ではなくてすみません(笑)。LQはそのにへどうぞ!



田中・寺崎・長沼『刑事訴訟法』(有斐閣アルマSpecialized)



刑事訴訟法 第3版 (有斐閣アルマSpecialized)

評価:★★★
一言:初学者に。この一冊でも十分?

感想
→一時期品切れとなっており、プレミアがついていたという一冊。評判にたがわず、とても良い本だと思います。

 内容は通説的な立場から、刑事訴訟法の手続きの順序に従って解説を述べていくもの。それほど分厚くもなく、楽に読み進めることができます。薄さのわりには重要論点はきちんと拾われており(もちろん手続的側面も)、論点同士のつながりを体系的に把握する、議論の流れをつかむのに重宝しました。安定感のある内容だと思いいます。

 もちろん議論の深みという点では物足りないですが、それは本書に求められているところではないでしょう。本書を足掛かりとして、あとは問題集や論文を読み、理解を深めていくことは十二分に可能だと思います(というより、僕は実際それをやっていました)。そのような意味では、本書一冊だけでも足りてしまうかも??





小林充『刑事訴訟法』



刑事訴訟法 新訂版

評価:★★☆
一言:硬質な解釈を求めるのならこちら?

感想
→ひょんなことから手に入れたので、通読してみました。著者は言わずと知れた刑事法界の著名人であり、内容の保障は折り紙つきです。(本書の姉妹本に『刑法 第三版』があります。)

 内容としては、上記アルマと同じ役回りかと思います。一冊で、コンパクトに刑事訴訟法を概観するのに適しています。
 ただ、文章が多少硬いことや専門用語が断りもなく登場すること、章立ての順番(刑事訴訟法を学ぶ際、まず捜査法から入るのがオーソドックスだとは思いますが、本書ではその前の総論部分にかなりの頁が割かれています。学習後に戻ってくれば良い話なのですが)などを考えると、初学者向けなのはアルマかと思います。本書は一通り学んだ人が復習として用いるのにより適しているでしょう。

 著者は実務家出身だけあって、捜査実務・判例を肯定するベクトルで議論がなされているように思います。アルマでは判例、捜査実務、通説的見解が述べられた後に通説を支持することが多いですが。この意味でも、いきなり本書を読むのは少し危険かもしれません(バランス感覚的な意味で)。
 手続的な部分についてはとてもしっかりと述べられており、復習にはとても良いと思います。

 アルマが嫌だ、という人はこちらを試してみてもよいかもしれません。



渡辺咲子『判例講義 刑事訴訟法』



判例講義 刑事訴訟法

評価:★★★☆
一言:「判例の読み方」を学ぶ・初学者に読んでほしい!

感想
→著者は検察官出身で、コンメンタールにもよく名前が出てくる渡辺咲子氏(理系出身の検察官です。経歴がユニーク)。彼女の著作には別に『刑事訴訟法講義(第6版)』という初学者向けの教科書があるのですが、ここではこちらを紹介したいと思います。

 本書は刑事訴訟法の体系にそって、それぞれの重要判例を解説していくスタイルをとっています。何よりも本書の素晴らしさは、著者自身が「判例の読み方・学び方」を手ほどきしてくれるところにあります。

 まず判例の「判示事項」「裁判要旨」を紹介し、それぞれの判例について具体的事案を(時には下級審判例まで引用しつつ)詳細に紹介した後に、最高裁の判断として原文を引用し、「一体最高裁はどの点につき、具体的事案のもとで、どのような判断を下したのか」「最高裁の判断にはどのような意味があるのか(判例の射程)」を丁寧に解説しています。ロースクールの授業をわかりやすく再現したような感じでしょうか。

 単に判例の規範部分のみを丸暗記するのではなく、判例の判断の裏にはどのような事情があったのか、どの部分に「先例」としての価値があるのか、等々、ある種「目から鱗」のような体験が(たぶん)できるでしょう。

 本書を読んでも、てっとりばやく答案で使えるような「論証」や「規範」は身に付きません。ですが、判例を「読む」力は必要でしょう。できれば、ロースクールに入る前に一読はしておきたい本だと思います。(本書に即効性は無いため、忙しくなってくると中々読めないでしょう。時間があるうちに目を通しておきたい本です。)




酒巻匡「論点講座・刑事手続法の諸問題(1)~(19)」(法学教室283号~306号)
酒巻匡「刑事手続法を学ぶ」(法学教室355号~現在連載中) 


評価:★★★★
一言:言わずと知れた「酒巻連載」

感想
→著者は松尾浩也門下、現京都大学教授。本連載は憲法的原理原則から現行法を解説しており、表面的でない深い理解が得られるものとなっています。「良い」基本書がないとされる刑事訴訟法において、「必読文献」としての地位を確立しているのはやはりひとえに内容の素晴らしさゆえなのでしょう。

 旧連載の方はどちらかというと論点解説ですが、新連載の方はかなり「基本書」を意識した叙述になっており、おそらく書籍化されるのだと思います。初学者が読むなら新連載の方でしょうね。ある程度学習が進んだ人は、旧連載の方が知りたい情報に早く接することができると思います。
 旧連載は捜査・訴因・伝聞証拠の一部しか解説がなく、網羅性に欠けるのが玉に瑕でしょうか。その時は新連載を読みましょう。旧連載とかなりかぶっている部分もありますので、旧連載を読んだ人は違う項目だけ新連載を読めばいいかなと思います。

 前述の通りある種「必読文献」と言われている本連載ですが、参考文献として挙げられたら読む程度でも良いかとは思います。ただ訴因の部分に関しては、本連載に多大なる恩恵を受けたので、是非一読(と言わず何度でも)を勧めたいです。

 文章が硬めですので、ちょっとだけ読みにくいかもしれません。気合を入れて読む必要があるでしょう。




田宮裕『刑事訴訟法』



刑事訴訟法

評価:★★★★
一言:「不朽」・圧倒的なわかりやすさ

感想
→1999年に他界された田宮博士の「教科書」です。中古で手に入れて読んでみたらドハマリしまして(笑)、現在も使っております。正直★4つはかなり贔屓目が入っています。以下色眼鏡がかかっていますので、それを了承の上でお読みください。

 刑事訴訟法は1999年の通信傍受法制定をはじめ、かなりの法改正を経ていますので、1996年出版の本書はもはや使えないのではないか…と思われるかもしれません。が!試験でよく問われるのはそのような法改正とは関係の薄い原理原則でして、本書の議論はいまだに輝きを失っていないと思います。

 「ペダゴーギッシュ」(教育用)と「はしがき」にある通り、記述がとてもわかりやすいのが特長です。そして、文言の定義をきちんと明示してくれていることが助かりました。「デュープロセス」の見地から一貫して説明されており、論理的に非常に明快だと思います。
 章立てが予備校本とほぼ同じであり(予備校本が本書を参考にしているのでしょうが)、予備校から入った人も親しみやすいですね。

 読みやすく、しかも理論的には深みがあるので刑事訴訟法的な議論を身につけるのに良いです。古いために議論がどうしても薄い箇所も散見されますが、そのような箇所は百選などで補充すれば問題ありません(たぶん)。

 僕は本書を「辞書」としてではなく、議論の地盤を固める「基本書」として用いています。章立て、議論の整理、刑事訴訟法の体系、語句の定義などは本書が一番分かりやすいと個人的には思っています。田宮説をそのまま採用できる論点は中々ないですが、それでもなお、本書を読む価値はあります。少なくとも僕は、本書を読んで「刑事訴訟法って面白いんだな」と感じました。現在はLQや上口が本書の代替になるのでしょうか。





松尾浩也『刑事訴訟法 上下』


刑事訴訟法〈上〉 (法律学講座双書) 刑事訴訟法〈下〉 (法律学講座双書)
刑事訴訟法〈上〉 (法律学講座双書)
刑事訴訟法〈下〉 (法律学講座双書)


評価:★★★(試験対策という意味では)
一言:こちらも「不朽」・目が覚める議論

感想
→元東京大学教授の手による体系書です。著者はいまだご存命で、現在有名な学者はこの人の門下生が多いです。

 本書は章立てが独特ですので、ちょっと読みにくいかもしれません。文章自体はわかりやすく、論理も明快でずいぶんと理解が進みました。酒巻連載などは松尾説を前提として書かれている部分もあるので(というより、松尾説を敷衍したような箇所もあります)、本書を読むとより深く理解できると思います。

 一文一文に意味が凝縮されており、かなりの実力者でないと読みこなせないという意見もあります。(ということは僕も本書を使いこなせていないということですね…(笑)。確かにその通りだと思いますが。)注意せずに漫然と読んだだけでは気づきませんが、しっかりと読み込むと感動する記述が随所にちりばめられている、という印象を抱いています。田宮本が優しく温かな文章だとすれば、本書は鋭く冷たい文章です(?)。何度も読むことで、新たな発見があると思います。

 本書は記述が非常に簡潔であって、論文対策という意味では本書一冊では足りないと思います。位置としては参考書ですね。刑事訴訟法が得意な方は、折に触れて本書を開くと、また一歩先へ進めるのではないでしょうか。





安冨潔『刑事訴訟法』



刑事訴訟法 第2版

評価:★★★★
一言:詳しさを求めるのなら・便利な辞書

感想
→ついに第2版が出版されました!B5サイズで結構大きく、かつ中々分厚いです。学習者だけでなく、実務家が使えるようにも意識した、とはしがきにあるように、基本的な事項と発展的な事項できちんとレイアウトが分けられており、厚さの割にはかなり使いやすいです。所々に「実務では~」と書いてあるのが個人的には好きです。

 判例や学説を詳細に紹介しており、ちょっと調べる時に重宝します。辞書的な役割を基本書に求めるのであれば、本書を選択肢にいれても良いと思います。なんでも書いてある、と言い切ってしまっても良いでしょう(笑)。条文の文言の定義、その当てはめの具体例、「補助事実」「純粋補助事実」の区別など、実際に問題を解いているときに生じる疑問を本書はフォローしてくれており、「痒い所に手が届く」本だと言えます。

 筆者は弁護士でもあり実務経験もあるためか、手続的な箇所の解説も大変分かりやすく、この点でも「痒いところに手が届く」感じ。『刑事第一審公判手続の概要』のコピペとしか思えない記述もありましたが(笑)、その後に行間を埋めるように詳しい解説がなされており、とても使いやすかったです。

 このたび、第2版が発売されることになりました!初版から100頁の増量、お値段も6千円弱(『新基本法コンメンタ-ル刑事訴訟 (別冊法学セミナー)』より高く、『新・コンメンタール刑事訴訟法』よりは安い)と、完全に辞書です。辞書として、是非!