【刑事訴訟法の入門書】

 刑事訴訟法を学ぶ際には、とにかくまずは手続の概要をつかむことが重要だと思います。刑事訴訟法は憲法31条「適正手続」のまさに具体化であり、民事訴訟法と異なり手続きがかなり厳格に定められています。その流れをまずは大体理解することからでしょう。
・入門刑事手続法第6版を追記しました(4月26日)。



三井誠・酒巻匡『入門刑事手続法』[第6版]



入門刑事手続法 第6版

評価:★★★★
一言:入門書であり、出門書

感想
→刑事訴訟法におけるビックネームが書いた、「手続法」の解説本です。「はしがき」にもある通り、刑事訴訟法の手続的側面にスポットライトを当てて解説がなされています。

 内容としては、捜査から公判、上訴その他救済手続に至るまで実際の刑事裁判がどのように進行していくかが、条文とデータを示しつつ詳しく解説されています。条文は本文中に括弧書きで挿入されるのではなく、本文の横に並べられています。随分読みやすく、個人的には好きなレイアウトです。
 手続的側面の解説に徹しており、いわゆる「論点」は「争いがある。」程度で流されています。判例も必要最小限度の引用にとどめられています。

 本書の良さは、規則だけでなく捜査規範にいたるまで、刑事手続における法的根拠を全て挙げてくれていることです。本書を「出門書」としたのはそのためで、本文中の解説につき全て根拠条文を挙げることが出来たら合格レベルを突破していると言えるでしょう。豊富な書面が添付されていることも◎。
 ある種淡々と条文の解説がなされているので、読んでいてちょっと退屈かもしれません。出来れば、裁判傍聴に行って具体的なイメージをつけつつ読めると良いですね。

 初学者がまず本書を読むときは、細かい規則や刑事訴訟法以外の法律はとりあえず横に置いて、刑事訴訟法の条文に慣れる目的でざーっと一周するのが良いのではないでしょうか。捜査の始まりから裁判の終わりまで、大体のイメージがついたら随分とその後の学習が楽になることでしょう。

 文言の定義や関係がしっかりと書いてあり、中級者以上が読んでも新たな発見があると思います。何度も読み返すべき良書です。お持ちでない方は、是非。









司法研修所監修『刑事第一審公判手続の概要』


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刑事第一審公判手続の概要 参考記録に基づいて 平成21年版

評価:★★★★
一言:公判手続だけならこちら 択一のネタ本?

感想
→法曹会から出版されている、いわば「公式」(?)の手続解説書です。捜査手続は無く、公判提起から判決までの解説がなされています。「第一審」とある通り、上訴もありません。平成19年度版まではA5サイズで持ち運びやすかったのですが、最新版たる平成21年度版からはA4サイズになって随分大きくなりました。

 上記『入門刑事手続法』より簡潔に記述されており、必要なところをしっかりと押さえているため分かりやすいです。各項目の終わりにチェックテストのような練習問題が3問ほどついており、知識の確認ができるところも◎です。
 先生からは、まずは本書から読むことをすすめられました。とても薄い(事件記録などの資料が半分を占めているため、本文はかなり薄いです)ため、すぐに読めます。出来れば『入門刑事手続法』と共に手元にあると安心ですね。







緑大輔『刑事訴訟法入門』



刑事訴訟法入門 (法セミLAW CLASSシリーズ)

評価:★★★(入門書という意味で。参考書としては、★★★★)
一言:入門書というよりは、参考書として

感想
→2012年11月に発売されたばかり。法学セミナー連載をまとめたものです。著者の緑先生は一橋大学出身、現北海道大学准教授です。

 「入門」と銘打ってありますが、完全な初学者を対象としているわけではなく、一通り刑事訴訟法を学んだ人が次のステップに進むための本です。(確かに第1講は「刑事手続の概要」から始まりますが、上記2冊に比べるとさらっと流し過ぎて分かりにくいです。初学者は読めないかなと思いました。復習用ですね。)

 読んだ感想としては、『憲法論点教室』に近いと思いました(工藤先生もブログでおっしゃっていました)。比較的若手の研究者が、最新学説の動向も踏まえながら学習者のために平易な言葉で判例、学説を丁寧に解説するところが、ですね。

 内容は、とてもわかりやすいです。「かゆいところに手が届く」感じ。各章は事例を挙げて始まり、「資料」として平野、田宮、などなど刑事訴訟法学の大先生方の文章の引用がなされているなど、構成に工夫がみられて飽きないです。(この引用文がまた面白いのです。)

 判例の内容、射程を解説しつつ、学説と実務の対立点についてもわかりやすく語っており、読んでいてとても面白かったです。判例の解説だけではなく、きちんと近時の学説までフォローしているところが◎。参考文献として挙げられているものが僕らの手に入る範囲に限定されており、そういうところにも緑先生の配慮を感じました。

 学説紹介や文献紹介の部分はちょっと古江先生の『事例演習刑事訴訟法 (法学教室ライブラリィ)』と近いものを感じました(同書よりレベルは低めですが)。本書を手がかりに参考文献をあたっていけば、順調に理解が深まるのではないでしょうか。そのような「ブックガイド」として本書を活用するのもアリだと思います。

 刑事裁判における被害者参加の問題、公判準備手続の問題など普通の「論点解説」にはないものもあり、「今」の問題意識が色濃く反映されている印象でした。もちろん重要論点についての解説も論点理解に資するものばかりです。混乱したとき、頭の整理に読むと良いでしょう。ちなみに、最終章は「実務と学説」について緑先生の主張が綴られており、その生き生きとした文章につい読みいってしまいました。

 「入門」ですので、深く突っ込んだ議論が直接なされているわけではありませんが、「橋渡し」としては非常に助けになるものだと思います。刑事訴訟法の基本書や論文を読んでもいまいちピンとこない方は、一読をおすすめします。