記事の文字数がオーバーしてしまったので、二つに記事を分けました。
 刑事事実認定50選の改訂情報を追記しました(9月27日)。


【刑法総論の基本書+α】 



大塚裕史『刑法総論の思考方法』



刑法総論の思考方法


評価:★★★★
一言:刑法総論の「学説地図」・参考書として

感想
→神戸大学の大塚裕史(「ひろし」と読みます)教授による「副読本」です。出版はWセミナーからなされていることからも分かるように、司法試験受験生のための本です。(学者本としては珍しいですね。)
 刑法の「思考方法」を明らかにすることを目的として、各論点について問題提起をし、判例通説を紹介し、反対説を紹介した上で、それぞれの説の問題点は何かをケースメソッド方式で解説し、対立点はどこにあるのかを原理原則に遡って探っていくところに本書の最大の特徴があります。ですます調の講義文体で書かれており、読みやすさも◎です。

 沢山の学説があふれている刑法ですが、それぞれの学説間の関係に焦点を当てて解説してある本書は、自らの依って立つ説が一体いかなる位置づけにあるのかを理解し、自分を相対化するのに最適です。

 各学説の紹介がしてあるといっても、最終的には判例通説に落ち着くことが多い(判例や通説がなぜ「判例」「通説」なのかという理由を明らかにしている)ため、読み進めればしっかり結論に辿り着くことができます。結論が明示してある(箇所が多い)点、僕らのような学習者にはありがたいです。

 本書はとても分厚く、細かいことも沢山書かれているので通読するのは多少厳しいかもしれません。ですが、自分の基本書を軸に据えて本書を読めば自説理解が深まることは間違いなく、便利な本だと思います。多少、大谷・前田説の説明が多いきらいがありますが、二冊目か三冊目に。



大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ 総論』



基本刑法I─総論

評価:★★★☆
一言:学者たちが書いた「予備校本」・基本書としてもOK

感想
→上記『思考方法』を執筆された大塚教授が中心となって書かれた総論の基本書です。帯には大きく「判例説」と書かれ、果たしてこの文句を見てわくわくするか萎えるかはその人次第、といったところですね(笑)。

 内容はまったくもって帯の通りで、それぞれの項目や論点ごとに事例問題が掲載され、判例やその判例を裏付ける学説の解説をしつつ、事例問題の解決をはかっていくスタイルとなっています。基本的に判例通説が貫かれており、かつ、随所に「答案でどのように表現すべきか」といった観点からアドバイスがなされています。読んでいて思いましたが、完全に予備校本と筆のタッチが同じ方向を向いています。とはいえ、執筆陣は第一線の刑法学者なわけですので、予備校本はちょっと…という方でも安心して使えるのではないでしょうか。

 随所に「規範定立→当てはめ」がちりばめられており、まさに受験生のためのテキストです。罪数論がしっかり書かれているところも良いですね。あと、第30講は「事例問題の解き方」と題して答案の書き方や事例の考え方などが解説されています。さらに日本評論社のHPには簡易問題集まで掲載されており、なんと言いますか、至れり尽くせり、と言うべきでしょうか。

 「判例説」との謳い文句の通り、内容はどこまで言っても判例通説を出ません。すでに刑法がある程度固まっている方にとって新しい発見は(あまり)無いでしょう。
 そのような方は『思考方法』をおすすめしますが、『思考方法』がまだ難しくて読みこなせない人や、一冊目の基本書を何にするか迷っている人、少数説で自説を固めてしまい、判例通説を復習したい人などにはかなり合っているかと思います。


 それにしても、本書といい、櫻井橋本『行政法』や、最近出た和田先生の『基礎からわかる民事訴訟法』といい、「予備校本より分かりやすい学者本」が増えてきて何よりですね。本書は特に上記和田民訴と近いものを感じました。司法試験対策を第一に考えており、判例通説の解説を重視し、中級者以上には少し物足りないところ(笑)がそっくりです。



小林充・植村立郎『刑事事実認定重要判決50選(上)』[第2版]


刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(上)


評価:★★☆
一言:判例実務の深い理解のために・高度ではある

感想
→実務家執筆陣による、事実認定の論点解説集です。上下巻で合計50個、判例を題材にした論文が収録されています。
 『刑事事実認定』と題されていますが、いくつかの論点については普通に論点解説にもなっており、判例実務の深い内在的理解には非常に有用です。本書には刑法総論と各論の一部が掲載されており、因果関係の認定、正当防衛の「急迫」性、「防衛の意思」、「相当性」、共犯論などは是非読むべき内容になっていると思います。
 自説理解が固まって、もう一歩先に進みたい方にオススメです。当然、刑事事実認定を学んでから読むとさらに先に進めます。

 ついに第2版が出ました!






木谷明編『刑事事実認定の基本問題』



刑事事実認定の基本問題

評価:★★★
一言:『50選』と共に・『50選』より先に

感想
→ここに書くかどうか迷ったのですが、読んでみてとても面白かったので掲載します。刑事裁判官・最高裁判所調査官としてご活躍された木谷明元裁判官を中心として、現役の裁判官により刑事事実認定の論点解説がなされている論文集です。
 コンセプトは上記『刑事事実認定重要判決50選』と同じですね。

 内容としては、刑法総論の問題(故意・因果関係・正当防衛・共謀)と刑事訴訟法の問題について論文が収録されています。『50選』と異なり、刑法各論については基本的に触れられておらず(自動車運転過失のみ)、刑事訴訟法の問題が中心です(刑法総論については上記4つのみ)。
 ですが、その4つの考察が非常に深いです。『50選』より良いと思えるものばかりです。特に因果関係の認定については大変丁寧な考察がなされており、個人的には一番興味深く読むことができました。

 しっかり読むだけでも判例についての理解が深まるとは思いますが、答案上で使えるものを得るという観点で読み進めることで、メリハリをつけた読み方ができると思います。実際、試験との関係で読むべき内容は限られています。
 第2版は2010年に発売されており、内容も新しいです(内容の新しさの点で『新実例刑法 総論』よりは良いかなと思います)。時間と余裕がある方のみ読めばいい本ですが、読んでみて損はない内容だと思いました。











山口厚・井田良・佐伯仁志『理論刑法学の最前線』



理論刑法学の最前線

評価:試験に直接は関係無し
一言:刑法理論が好きでかつ得意なお方へ

感想
→たまたま古本屋で見つけたので購入した一冊。執筆陣が豪華ですね…
 内容としては、あるテーマ(「因果関係」とか)について三人の中のお一人が論考を書き、他のお二人がその論考に対して「コメント」という形で批評を加え、刑法総論の各論点について考察がなされています。

 読んでいて「この人たち仲良いんだろうなあ…」と思えるコメントが並びますが、内容はとても高度です。正直、今でも完全に理解出来ない箇所が多いです。

 「最前線」と題する通り、論考の結論は暫定的なもの(ないしその方向性)が示されるだけのことが多く、試験との関係で「使える」ようなものではありません。ただ、刑法学の第一人者たるお三方が互いを尊重しつつ、議論されているので、理論刑法が好きな人は読んでいてとても楽しいかもしれません。あくまでも「かもしれない」だけです。読む際は注意して読みましょう。逆に混乱するかもしれません(笑)。