行政法の基本書は以前記事にしたのですが、今回はいわゆる「入門書」と言われるものを読んだので、それをレビュしたいと思います。たった2冊ですが(笑)。





藤田宙靖『行政法入門


行政法入門
行政法入門


評価:★★★★
用法:初めての一冊にも、復習にも最適



感想
→東北大学教授、最高裁判事をつとめられた碩学の手によるザ・入門書です。縦書き、ですます調で語りかけるような文章が特徴的です。もっと本書を早い段階で読んでおけば良かったと思いました。名著といってよいと思います。

 行政法という分野は、最近司法試験で必修化されたこともあってか、他の法分野に比べて現在まさに発展途上な印象を受けます。したがって、学習者(特に初学者)としてはいわゆる「伝統的通説」と「近時の有力説」と、どちらを学ぶべきか迷うことが多いのではないでしょうか(他の法分野でも同じかとは思いますが)。特に、近時の行政法では伝統的な概念区分の相対化が唱えられ、「結局個別的な法解釈しかないのか」と思うことも多いのでは(僕は当初そうだったのですが)。

 そのような問題意識を持ちつつ、本書はまず「伝統的通説」を押さえるところに重点が置かれています。すなわち、ドイツ行政法学や田中二郎の学説を中心とした伝統的概念を(様々な比喩を用いて)説明したあとに、「最近では議論があって、なかなか複雑なのですが、入門段階では省略します。」として流していることがしばしばあります。

 このような「省略」が多々あるため、本書一冊で行政法の試験対策は不可能ですが、それを補って余りあるわかりやすさが本書の一番の魅力です。行政法を学ぶ者なら必須といえる概念の説明がとにかくわかりやすい。沢山の比喩を用いるだけでなく、他の概念・制度との対比がなされているところが素晴らしいです。
 個人的には、「法律による行政の原理」中の「法律の優位の原則」「法律の留保の原則」についての説明がとてもわかりやすかったです。多分今までで僕が出会った説明の中で一番端的、かつわかりやすい説明だったと思います。

 本書は「行政作用法/行政組織法」「法律による行政の原理」「情報公開制度・個人情報保護制度」「行政行為」「行政立法」「行政契約・行政指導」「行政の実効性の確保」「行政救済法」につき説明がなされており、初学者はまず本書を読んで大まかなイメージを付けてから基本書に移行すると、行政法総論の理解が容易になるのではないでしょうか。
 また、いくつかのトピックについては判例の検討もあり、一通り学んだ中級者が読んでも得られるものはあるはずです。

 文章もとても柔らかで読みやすく、オススメの一冊です。




曽和俊文・山田洋・亘理格『現代行政法入門』


現代行政法入門 第2版
現代行政法入門 第2版


評価:★★★
用法:どちらかというと副読本・一冊目には向かないかも



感想
→こちらは藤田先生より世代が若い(といっても60歳前後)教授達の手による、「行政法を初めて体系的に学ぼうとする際の教科書」です。
 「入門」と題されていますが、内容は結構高度です。上記藤田入門が、伝統的通説をかみ砕いて説明しようとしているのに対し、こちらは近時の有力説(通説)に重きを置き、その理論構造から詳しく説明しているところに特徴があるように思います。イメージとしては、リーガルクエスト会社法に近いものを感じました。

 行政法総論と救済法を一冊にまとめているので分量はコンパクトですが、随所にコラムが設けてあり、発展的な内容も多く含んでいます。『事例研究』の中に本書参照部分があるなど、近時注目されている理論についての詳しい説明があるところは良いところです(裁量審査については一読を薦めます)。

 ただ、発展的な内容を多く含み、完全な初学者が本書を読んでも十分に消化しきれないのではないかとの懸念が残ります。「入門」と銘打ってはありますが、やはり二冊目に読む方が効果が高いでしょう。

 サクハシ本などの基本書を読んで、もう一歩先に進みたい人にオススメの一冊です。