【家族法の基本書等】

 家事審判法に代わり、2011年に家事事件手続法が成立しました(平成二十三年五月二十五日法律第五十二号)。これから家事事件の手続きには本法が適用されることになります。略称は家事審判法が「家審○○条」だったのに対し、「家事○○条」みたいですね。
さらに、同年に民法も改正され、2012年4月1日から施行となっています(842条が削除されたりしています。)。これに伴い、家族法の基本書が軒並み改訂されています。

 司法試験という観点だけからすると、家族法分野はほぼ択一のみの出題です。なので、基本書は無くてもなんとかなるとは思います。ですが、家族法分野は実務に出たとき「常識」として求められるところです。出来れば勉強時間が沢山取れる今の段階で体系を頭にたたき込んでおきたいところです。

 と、家族法の基本書の必要性を語ってみたところで(笑)、紹介に移ります。
・窪田『家族法』と『民法演習ノートⅢ』を追記しました(5月24日)。
・アルマ4版及びリーガルクエスト3版を追記しました(4月23日)。家族法分野は判例や立法の動きが活発で、改訂も頻繁ですね。







高橋朋子他『民法7 親族・相続』(有斐閣アルマSpecialized)[第4版]



民法7 親族・相続 第4版 (有斐閣アルマ)

評価:★★★
一言:読みやすく、ちょうど良い。スタンダード

感想
→まず第一に挙げるとすればアルマでしょうか。有斐閣アルマには「親族・相続」の本が二冊あり、司法試験の基本書として使えるのはこちら"Spacialized"の方です。(ちなみにもう一つは松川『民法 親族・相続』です。こちらは有斐閣アルマ"Basic"の方ですね。)
 第3版は2011年12月に出版されており、しっかり家事事件手続法もカバーされています。

 内容は、大変スタンダードなもの。文章も読みやすく、有斐閣アルマには珍しく(?)ケースメソッドが取り入れられています。分量も(司法試験という観点からは)必要十分であり、さっと通読できるのではないでしょうか。二色刷でレイアウトも見やすいです。
 記述量は多くないので、ケースメソッドを生かし切れていないかなと思う箇所も。ですが、そこは自分で図を書きつつ、条文を引いて考えた上で本文を読めば足りるでしょう。そのため、辞書には向きません(当たり前ですが)。通読しましょう。

 家族法にそこまで時間をかけられないよ、という人は(そんな人が大半でしょうが笑)本書をお薦めします。良くできたテキストだと思います。








前田陽一他『民法Ⅵ 親族・相続』(LEGAL QUEST)[第3版]

 

民法6 親族・相続 第3版 (LEGAL QUEST)


評価:★★★★
一言:内容が豊富かつタイムリーで、記述のバランスも◎

感想
→教科書指定されたので購入したもの。3版は2015年4月に出版ですね。最近判例や立法の動きが活発なことを反映してか、改訂が頻繁になされています。

 同シリーズ『会社法』とは異なり、ケースメソッドではなく、オーソドックスな教科書スタイルです。それぞれの制度について、趣旨から丁寧に記述し、要件効果をしっかりと説明しているところに特徴があります。執筆陣からも分かりますように(みな家族法分野の第一人者です)、「かゆいところに手が届く」基本書だと思います。
 
 欠点を挙げるとすれば、記述が淡泊で、読んでいて少し退屈なところでしょうか。あと、試験対策における親族相続法の占める割合という観点からは、ちょっと情報過多かなとも思います。通読するのには少し骨が折れます。辞書的に、問題で聞かれたところだけ読むのもアリだと思います。時間がある方は通読した方が良いことは言うまでもありませんが。

 丁寧な解釈論が展開されており、リーガルクエスト民法の中で人気の一冊であることも納得できます。本書があれば、他の基本書は必要ないでしょう。信頼できる一冊だと思います。

 新しくでた演習書『民法演習ノートIII―家族法21問』との相性も良く、本書の内容からして、これからは本書か下記『ハイブリッド』か窪田『家族法 -- 民法を学ぶ 第2版』がメインテキストになっていくものだと思います。





窪田充見『家族法―民法を学ぶ』[第2版]



評価:★★★★☆
一言:家族法が面白くなる

感想
→『不法行為法―民法を学ぶ』でも有名な、窪田先生の基本書(?)二冊目です。第2版は2013年に出版されていて、リーガルクエストより新しいです。家族法分野では、実は毎年重要判例が出ているので、「新しい」ということは結構大事です。

 リーガルクエストが標準的な「教科書」であるのに対して、本書は「読みもの」として書かれている感じが強く、教科書っぽくはありません。窪田先生が講義をされているような語り口で、読んでいて退屈しないのは良いですね。
 内容は、家族法分野全体について、理解のつまずきになりそうな箇所や基本的な制度背景など、窪田先生が重要だと思う箇所については分厚く、そうでないところは簡潔に説明がされています。とはいっても、全体で600頁強とかなり分厚いので、本書で足りないと思うことは無いと思います。

 親族法では民法の制定された背景や当時の事情から、代理母問題等の最新の問題まで、具体例を数多く挙げて説明がされています。相続法では、相続分の計算方法や遺留分の計算方法について、具体的な数字を沢山挙げて、これもまた頁を割いて解説がなされており、相続の処理について一通り詳しくなることができます。(司法試験の短答試験で具体的相続分の計算が出たときに笑顔になれます(笑)。)

 また、それぞれの分野の重要判例については、事件の背景や具体的事情から判旨まで、彼の独特の語り口で丁寧に説明されることも本書の良さですね。
 随所に挿入されるコラムも大変に面白く、家族法を勉強することが楽しくなること請け合いです。

 「普通」の教科書だと家族法は飽きてしまう!という人には、是非本書をすすめます。違った角度から勉強できて、家族法が好きになるかもしれません。





半田吉信他『ハイブリッド民法5 家族法』



ハイブリッド民法5 家族法〔第2版〕


評価:★★★☆
一言:ケースメソッドを取り入れ、新たなスタンダードとなるか?


感想
→「法学部と法科大学院をつなぐ」ためのテキストを目指して出版された「ハイブリッド」シリーズの家族法。こちらも、2版は2012年4月に出版。家事事件手続法をカバーしています。

 ケースメソッド方式をとっており、レイアウトも上記リーガルクエストより読みやすいです。ページ数はリーガルクエストより100ページほど少なめ。
Case, Topic, Further Lessonを設け、読んでいて飽きさせない工夫がなされています。
 レイアウトが見やすいので、探したい情報をすぐに見つけられるところが良いですね。文章も面白いと思います。

 個人的にはリーガルクエストよりこちらの方が好きです。情報量も丁度いいのではないでしょうか。通読はこちらの方がしやすいかなと思います。
イメージで言うとアルマとリークエの中間に位置する感じ。☆一個分少ないのは、「受験」との関係でいくと、やはりリークエに軍配があがるかなあと思ってのことです。
 ただ、一度手にとって読んでみる価値のある一冊だと思います。




窪田・佐久間・沖野[編著] 磯谷・浦野・小池・西[著]『民法演習ノートⅢ―家族法21問』



民法演習ノートIII―家族法21問

評価:★★★★★
一言:決定版!

感想
→弘文堂の演習ノートシリーズ、ついに民法の発売が始まりました!編者を見るに、相当気合いを入れて出版するのだろうな、というのがうかがえます。総則物権、債権、家族法で計三冊予定らしいのですが、まず家族法から出版されたのは少しびっくりでした。出たばかりで、民法900条4号ただし書(旧)についての大法廷判決もきちんと収録されています。

 本書は、編者もさることながら、その他の著者が家族法を専門に研究されている研究者や、家族法に詳しい弁護士であって、かなり豪華なメンバーがそろっています。

 内容は、他の演習ノートシリーズと同じく、長文の問題+解説+答案例が21問掲載されており、それぞれの問題につき執筆担当の先生の個性が色濃く滲み出ています。たとえば弁護士の磯谷先生の担当部分は、実務ではどうなっているか、ということに重点を置いて説明されていたりします。押さえるべき最低限の知識はどの解説でも触れられているので、各先生の色を楽しめて、退屈せずに読み進められると思います。

 編者の先生方も有名な方で、その解説は素晴らしいのですが、それよりも、著者の先生方が、家族法をご専門にやられているということもあって、本当に素晴らしい解説を書かれています。個人的には、著者の4人の先生方の解説こそ、しっかりと読むべきだと思います。

 21問もあるので、家族法の大抵の論点は押さえられています。判例もかなり沢山学ぶことが出来ます。百選はあった方が良いような気がします。家族法判例百選は2008年出版で、百選出版以降も重要判例は出ているので、そういう重要判例をフォローできるのも本書の良さです。

 家族法は論文試験で真正面から聞かれることは少ないので、問題をがっつり解くというより、問題を通じて解説を読む、のような感じで軽く取り組むと良いのではないでしょうか。これを一冊読めば、家族法に関しては、かなり他の人にアドバンテージをつけることができると思います。
 僕は司法試験前の4月に、一ヶ月かけて本書を全部解きましたが、とても役に立ちました。かなりおすすめの演習書です。





内田貴『民法Ⅳ 親族・相続』



民法IV 補訂版 親族・相続

評価:★★★
一言:「読みもの」としては面白い。古いのが玉に瑕


感想
→内田民法最後の一冊。
 本書は2004年出版であり、当然に家事事件手続法は載っていません。新法や新判例などは別途補充する必要があるでしょう。民法自体も改正されているので、本書のみはかなり危険です。必ず最新の六法を手元に置いて、条文を引きながら読んで下さい。

 しかし、本書には古さを補って余りある面白さがあります。内田民法の中ではⅠくらいには良い本だと思います。他の基本書と比べると本書はガッツリ分厚い(リークエより100ページほど多い)ですが、明治民法からの歴史的沿革、戦後改正の趣旨などから丁寧に、かつ分かりやすく現行法制度が解説されており、驚くほどスイスイ読み進めることが可能です。条文の背景まで講義調で説明してくれるので、記憶が定着しやすいのも良いですね。

 家族法については条文知識がとても大切ですが、本書は他の3冊とは違って(笑)、条文に沿って解説がなされているので◎です。内田民法の特徴として、(良くも悪くも)著者の価値判断を強めに出すところがあると思うのですが、それが本書を面白いものにしているのは間違いないと思います。

 本書の特徴として、統計資料などをかなり引用し、社会的事実をみながら解釈論を展開していることが挙げられます。そして、随所に立法論があらわれます。このような工夫が本書を「読みもの」として面白くしていることは事実なのですが、テキストとして考えると、覚えるべき箇所が明確にならないことは否めません。本書の古さからしても、受験勉強にとっては、本書の有用性は下がらざるを得ないものと思います。違った視点を提供してくれる本かなと、思います。











我妻榮『法律における理窟と人情』



法律における理窟と人情


評価:戦後改正された家族法についてのわかりやすい解説
用法:気が向いたときに


感想
→戦後、我妻博士が法学部生、一般人に向けて行った講演を文字におこしたものです。題名にもなっている「法律における理窟と人情」と、「家庭生活の民主化」のふたつが収録されています。

 後者が戦後家族法についての講演なのですが、夫婦間の財産がなぜ共有になっているのか?や、家族法の目指す方向性について彼自身の体験も合わせてわかりやすく語られており、その内容は現在においてもなお輝きを失っていません。気が向いたときに図書館などで読んでみると良いかもです。
 「法律における理窟と人情」は以前の記事に書いたので、省略。