民法は基本書が多くて目が回りますね…予備校本と基本書と上手く使い分けると良いと思います。京大系の先生方が良書を沢山お書きになっておられますね。

僕は別に基本書を沢山買った方がいい、という思想ではないので、何らかの参考にしていただければなと思います。一応、全部目を通してみての感想です。まあ、一冊持っていれば良いでしょう。



【総則・物権(担保物権除く)の基本書】


伊藤真『民法総則』



民法総則 第3版 (伊藤真試験対策講座 1)

評価:★★☆
用法:基礎と判例通説の確認

感想
とりあえず予備校本として。これを一番上に置くのも基本書紹介としてどうかと思いますが…笑
 民法は、答案上で深い深い学説理解を展開することは中々無いので、まずは(どの科目もだとは思いますが…)判例通説を押さえることからだと思います(そして、往々にしてそれで必要十分です)。シケタイシリーズはどれも情報過多な部分と薄い部分との差があって、善し悪しがあります。それを割り引いて読むと有益でしょう。



佐久間毅『民法の基礎1 総則』



民法の基礎 (1) 総則 第3版

評価:★★★★
用法:通読

感想
おそらく総則の基本書の中では最も有名、というかみんなが使っているものではないでしょうか。京都大学の佐久間教授、シリーズ一巻目。
 きちんと趣旨から論じていくスタイルです。ただ、発展学習部分は難しいです。僕は下記山本教授のを使っていますが、好みでしょう。佐久間教授ご自身が代理についての論文を出版されている(『代理取引の保護法理』)ため、代理部分の記述は特に秀逸との声も。
 わかりやすく書かれているため、初学者の方には下記山本総則より、こちらがオススメ。物権と揃えたい、もしくは値段が安い(笑)のがいい人はこっちかなと思います。

 道垣内弘人教授曰く、「民法の条文や判例について内在的な説明を施そうとしている」「(判例理論に)賛成・反対はあるのですが、まず内在的理解を試みる。この点が、佐久間さんの本のすばらしいところだと思っているのです。」(法学教室374号「対談民法の学び方」より)




山本敬三『民法講義Ⅰ 総則』



民法講義1 第3版 総則

評価:★★★★★
用法:通読or辞書

感想
こちらも京都大学。債権法改正にも深く関わっている、山本教授の基本書です。僕はこちらを軸としています。
 
 このシリーズ(と言っても総則と契約しか出ていませんが…)の特徴は、なんといってもその圧倒的厚み(笑)と、レジュメ調のレイアウトでしょう。条文、ケースのあと、解説がなされています。そこで、対立点があるときはa)~説 b)~説 という風にして検討されています。趣旨、要件、効果と項目立てされているのが好きです。
 ただ、各学説が並列してあるだけのところもあるため(その整理が素晴らしいのですが)、初学者は「だからどの説がいいんだ!」となってしまうかも。総じて、上級者向けの基本書だと思います。

 僕はパッとみて項目立てがわかりやすいのが好みですので、こちらを選びました。佐久間本より覚えやすい気がします。高いですが。総則だけで実に650ページ超という化け物です。消費者契約法までカバーしております。辞書ですね(笑)。

 もう一つ、この本で助かったのは「規範構造表」「要件事実表」がついていることです。つまり、ある法律効果について(例えば表見代理)、「請求原因・抗弁・再抗弁・再々抗弁」ごとに条文上の該当箇所と具体的な事実(「顕名」「代理行為者による法律行為」など)が表として掲げられています。これ全部覚える必要は無いと思いますが、色々な法律効果の要件を意識する上で大変役に立ちました。思い出しやすいのも◎。




河上正二『民法総則講義』

民法総則講義
民法総則講義

評価:★★☆
用法:通読or辞書

感想
こちらは東京大学、河上教授の基本書。法学セミナー連載をまとめたものです。彼の講義が楽しかった(ちょっとしか出席していませんが)ので、中古で買いました。僕は全てに目を通している訳ではありませんが、紹介を。 
 特徴は、何よりローマ法まで遡って論じていることですかね。そして、こちらも総則のみで600ページ超です。化け物っぷりは山本民法に張ります(笑)。
 ただ、その叙述スタイルは全く異なります。山本民法が簡潔な記述とレジュメ調のレイアウトを駆使するのに対し、河上民法はオーソドックスな教科書スタイルです。各項目について歴史の始まり(主にローマ法)に遡って、しっかりと深い理解を伴いながら論じていくスタイル。こちらも消費者契約法までカバーしており、知りたいことはほぼ書いてあるでしょう。ちゃんと通読すれば理解が深まること間違いなしなので、時間がある人、特に人文系の文章を読むのが好きな人はこちらでも。ちなみに、最近物権法も出ました。物権法講義 (法セミLAW CLASSシリーズ) ちなみに(その2)、表紙の絵は河上先生ご自身が描かれたらしいです。




伊藤真『物権法』

物権法 (伊藤真試験対策講座) 第4版
物権法 (伊藤真試験対策講座) 第4版

評価:★★★
用法:基礎確認

感想
シケタイの物権法です。この一冊で担保物権法までカバーしています。物権は色々と穴になりがちですので、まず判例通説を押さえる意味では良いのではないかと。



佐久間毅『民法の基礎2 物権』

民法の基礎〈2〉物権
民法の基礎〈2〉物権

評価:★★★★
用法:通読

感想
佐久間教授の2冊目ですね。物権法の教科書は他の分野ほど「良い」基本書が噂されず、薄めでかつ内容がしっかりしているのはこの本一択ではないでしょうか。総則と異なり、2006年に初版が発行されてから改訂されておらず、2012年1月段階でなんと12刷を記録しています(笑)。法律書としては馬鹿売れなのでは…?
 各項目につき、沢山のケースを使って説明してくれているのが◎。「発展学習」は結構難しいことが書いてあります。民事訴訟法のことにも触れており、学習が進んでから読み返すと新たな発見があるかも。
 なお、2006年初版以降改版されていないので、入会地についての固有必要的共同訴訟の判例(最判平成20・7・17)は載っていません。




内田貴『民法Ⅰ 総則・物権総論』

民法I 第4版: 総則・物権総論
民法I 第4版: 総則・物権総論

評価:★★☆
用法:通読or2冊目の参考書として
 
感想
学部ではじめて民法を習ったときの指定教科書でした。債権法改正の旗手として法務省参与となり、改正に対する批判の槍玉に挙げられている(笑)、内田先生の民法1冊目です。なんだかんだ言って単一著者では一番有名なのではないでしょうか。
 本書は、多くの初学者がまず民法から始めることを考慮し、「一冊目の教科書」としての役割をすごく意識して書かれています。内容も、ケースメソッドであってとても分かりやすいです。さすが内田先生、と言ったところ。

 ただ、難点を挙げるとすれば、さらっと内田説(少数説)が書いてあるところ(判例が対抗問題(177条)として処理しているところを、ガッツリ94条2項類推で解説したり)と、要件がちょっと曖昧なところでしょうか。判例通説を批判し、自説を推してくる辺り、一冊目としてどーなんだと思わざるを得ません(笑)。おかげで苦労しました。

 内容が分かりやすいのは間違いないので、判例通説がしっかりと分かった人が2冊目として読むのはアリだと思います。総則・物権がこの一冊でカバー出来るのも良いところでしょう。