【判例集】

 行政法は、結局最終的には問題の中に出てくる個別法の解釈ができるかどうか、になります(ronnor先生のお言葉を借りると、「ゴールは、重要判例がある個別法であればその基本的仕組みを理解したうえでその法文に照らしながら総論・訴訟法で学んだ内容を具体的事例に適用する、マイナーな個別法ならその場で法文を読んで仕組みを理解し、総論・訴訟法で学んだ内容を具体的事例に適用する」)。

 基本書と、事例問題の中での個別法解釈との間にはかなりの隔たりがあり、基本書で展開されている議論を覚えたからといって、即座に問題が解けるようにはならないのが、行政法を学ぶ上で頭を抱えるところです。
 このような行政法の特徴を考えるに、結局、勉強法としては、重要判例と呼ばれるものに登場する各個別法の仕組みを、判例と個別法を読み比べつつ、一つひとつ身に付けていくしかないと思います。重要判例を、個別法片手に読みましょう、ということですね(と、先生方に教えられました)。これはかなり大変なことだと思いますが(汗)、このような直球の勉強でしか、真の力はつかない、ということなのだと、思います。


・大橋ほか『行政法判例集Ⅰ』の改訂情報を追記し、橋本『行政法判例ノート』の改訂情報を追記、各判例集の感想を加筆修正しました(12月21日)。
・演習書と判例集とを分けて二つの記事にしました(12月22日)。
・『ケースブック行政法』第5版を追記しました(4月2日)。最近、感想が長くなってしまう傾向にあります。読むと書きたいことが沢山出てくるのです、すみません(笑)。
・百選の感想を大幅に書き換えました(8月4日)。





『行政法判例百選Ⅰ・Ⅱ』[第6版] 



行政判例百選1 第6版 (別冊ジュリスト 211)
行政判例百選2 第6版 (別冊ジュリスト 212)

評価:★★☆

感想

 →判例集のスタンダード。憲法判例百選の方は、6版になって随分と使いやすくなりましたが、行政法の方は後少し、といった感じでしょうか。

 いくつかの不満があります。
 まず、行政法判例百選に関しては、編集方針として、最高裁判例しか掲載しない、ということがあります。個人的には、下級審裁判例も読みたいところでして、この部分に物足りなさを感じます。
 加えて、行政法の百選についてはやはり判例数がかなり多いです(全部で260件を超える)。多くて困ることはあまりありませんが、適切に取捨選択する必要があります。
 最後に、行政法の判例を読む際はどうしても個別法の条文と照らし合わせて読む必要が出てきます。しかし、百選のレイアウト上、当該判例にて問題となっている個別法の条文を引用することができません。これは下記『ケースブック』などと比べた際の欠点でして、詳しく学びたい人には少し足りないかなと思います。
 
 不満をいくつか述べましたが、難解なものが多い行政法の判例について解説が付属している本書はやはり有用ではあると思います。判例数も多いため、百選を持っていれば、(判旨引用不足を補う必要はあるかもしれませんが)判例それ自体の不足を感じることはないでしょう。本書はうまく利用したいところです。



大橋洋一 ほか [編]『行政法判例集Ⅰ総論・組織法』,同『行政法判例集Ⅱ救済法』


行政法判例集 1 -- 総論・組織法
行政法判例集 2 救済法

評価:★★☆
一言:上級者向けの判例集

感想
 →学部で買わされたもの。大量の判例が載っています(2冊で700判例以上をカバー)。文字サイズは少し小さいです。『総論・組織法』の方も2013年12月19日にようやく改訂され、Ⅰ・Ⅱとして完成しました。最新判例も下級審もこれで完璧ですね。

 行政法判例は個別法解釈に関わるため、具体的事案の把握が他の科目に比べて重要だと思いますが、本判例集は各判例の具体的事案の概要や個別法規がとても詳しく載っており、かつ判旨がしっかりと引用されています。他の判例集に比べ、掲載判例数と引用の長さは圧倒的No.1です。

 重要判例や、気をつけるべき判例のあとにはReferenceとして関連判例を掲載し、必要最小限の解説が付されています。ただ、自学自習するには掲載判例があまりにも多く、そのような意味で使いにくいかもしれません。
 授業等でこの判例集を使ったりして、うまく判例をランク付けし、選別できれば、よい味方になると思います。





橋本博之『行政法判例ノート』[第3版]


行政判例ノート 第3版

評価:★★★☆
一言:初級者から使える良書・まずは本書から

 →櫻井・橋本『行政法』とリンクしている判例集です。頻繁に改訂されており、200件くらいの判例が載っています。
 レイアウトがすごく読みやすいです(というかポップすぎてちょっと受験生に媚びているような…笑)。百選の代替は可能かと思います(多少足りないですが)。全ての判例につき百選番号、下記ケースブック番号、重判番号が振ってあります。

 内容としては、各判例(引用は少し短め)それぞれについて、橋本教授が簡単なコメントを加えています。コメントは短いですが、端的かつ的確にポイントを押さえたもので、大変わかりやすいです。判例の並べ方も分かりやすく、初学者も十分に使えると思います(というより、初学者二こそ、といった感じ)。受験生のことを良く考えている判例集です。
 ただ、掲載判例数が200程度なので、少し足りないかなと思うこともあり、引用が短いかなと思うこともあり、学習が進んでくると物足りないと感じるかもしれません。

 行政法の判例は、理解するのに個別法の知識が必要なものが多く、他の法分野より難しい印象があります。そうした中で、初学者でも判例のエッセンスが簡単に理解でき、事案をさっと確認するのには最適な判例集だと思います。まずは本書から判例を読み込んでいき、これだけでは足りないと思ったら適宜他の判例集も読んでみる、という使い方が良いのではないかと思います。

 この度第3版が出版されましたが(早すぎ…!?)、裁判所HPにしか載っていない超最新判例も載っており、特に平成24年の君が代判決と25年の薬事法判決(橋本先生の解説付き)は貴重です。






高木光 他『ケースブック行政法』[第5版]



ケースブック行政法 第5版 (弘文堂ケースブックシリーズ)

評価:★★★★
一言:論文勉強に最適

感想
 →弘文堂ケースブックシリーズの中で圧倒的に有名なのが行政法です。行政法は論文を解く際、判例の参照がとても参考になる科目とは思いますが、百選も判例ノートも判旨が十分に引用されていないことがあるので、こちらの出番は結構多いかと思います。

 内容としては、各章ごとに、まず「判例の概観」として章のテーマ、各判例、関連判例の紹介や位置づけが説明されます(イメージとしては、重判の冒頭「判例の動き」に近いです)。その後で、「重要判例」として、判例(下級審判例含む)が時系列順に掲載されています。

 本書の特徴としては、「判例の概観」が各章ごとにあることと、判例の紹介が二種類に分かれていることです。
 重要判例については、個別に事案概要(個別法の引用含む)、(他の判例集に比べ長めの)判旨が掲載されます。重要判例ではないが、知っておくべき判例は、「判例の概観」中で軽く紹介される、という位置づけが与えられています。こうすることで、掲載判例数を多くしながらも、重要判例については詳しく紹介することが可能になっています。百選のアペンディクスのような感じです。

 本書の良いところは、「判例の概観」がわかりやすい、ということもありますが、何より、(下級審判例を含めた)重要な判例がかなり詳しく掲載されているところです。そして、その判例で問題になっている個別法まで載っているのが素晴らしいです。
 行政法の判例において、個別法を離れた一般法理(僕らが基本書で学ぶ「行政法総論」)のみが問題になることは少なく、ほとんどの判例が個別法の解釈を展開しています。行政法判例の難しさはここにあり、問題になっている個別法を読まなければ判旨を上手く理解できません。
 本書は、事案を詳しく説明するのみならず、個別法の抜粋まで載せてくれており、判例の理解に大変有用です。個人的な感想ですが、個別法を読むことの大事さを、最近とみに実感しつつあります。
 そのほかの点として、判例が時系列順になっていることも挙げられます。元々教材として使用されることを念頭に置いて作られているため、編者の色が出ないように、との工夫ですが、判例の流れを理解するのに結構有用なのではないか、と個人的には感じています。

 本書のデメリットとしては、判旨まで載っている「重要判例」が少し少ないことでしょうか。「判例の概観」中で触れられるだけの判例にも、判旨を読みたい判例は多く、択一などを勉強していると、少し不便を感じることがあるかもしれません。適宜コピーして挟み込むなどすべきでしょう。

 このたび(2014年3月)、遂に第5版が発売されました!4版からの引っ越しのため、一読したのですが、まず全体の頁数が大幅に(約100頁)増量していることからわかるように、かなり内容にも手が入れられています。「判例の概観」のみならず、各判例の事案の説明までも(!)少しずつ加筆修正がなされており、編者の教育的配慮が伺えました。
 行政法分野の判例はここ数年でかなり沢山の重要判例が出された印象がありますが、5版になって「重要判例」として新たに追加された判例は10程度と、思ったより追加されていません。ただ、「判例の概観」中に新たに登場した判例は30を超えており、あまり不満は感じませんでした。

 以上長々と書いてきましたが、基本的には使いやすい判例集です。個々の判例に解説がありませんので、初学者向けではないですが、ある程度学習が進んだ人は是非選択肢の中に入れてみてください。