行政法は基本書を読むのも大事ですが試験関係では何より個別法の解釈が大事になってくるので、判例を読みつつ演習を重ねるのが良いのかなと思います。
櫻井・橋本行政法の改訂情報(4版)を追記しました(6月29日)。
そういえば、塩野行政法の改訂情報を反映していなかったので、追記しました(6月30日)。
櫻井・橋本の改訂情報を反映し、全体の文章を見直しました(9月13日)。
宇賀行政法概説の改訂情報を追記しました(9月27日)。
原田大樹『例解 行政法』を追記しました(12月11日)。
曽和俊文『行政法総論を学ぶ』を追記しました(7月14日)。



【基本書】


塩野宏『行政法Ⅰ・Ⅱ』[第5版補訂版]


行政法1 -- 行政法総論 第五版補訂版  
行政法2 -- 行政救済法 第五版補訂版 

評価:★★★★
使い方:通読or参考書(辞書) 何度も読み返すべき

感想

 →最近の「通説」的な見解といえば塩野説になるのではないでしょうか?官庁にインターンに行った友人の話によると国家公務員の人の机上にこれが並べてあったとか。表紙から分かる通りレイアウトに全く工夫が見られず(笑)、かつ縦書きで淡々と文章がつづられているのでこれを見ただけで眠くなる人も。初学者が敬遠してしまう身なりをしています。 

 しかし本業の方が使っている(?)だけあって、安心できる内容です。簡潔な文章の中で、語句の定義や問題提起がちゃんとしてあるのは◎。論点に対する自説と、その理由がしっかり書かれてあるのが良いです。勉強が進んで読むと、文章のわかりやすさに感動することがしばしば。目的をもって読むとちゃんと望む記述が得られる感じです。その意味で辞書的に使うのもアリだと思います。

 ただ判例の引用が簡潔であったり、「百選○○」で済ませてあったりするために読む際は判例集が必要なこと、脚注を沢山使ってそこに高度なことをまとめていることは、好みが分かれるところかもしれません。
 宇賀先生の教科書を使っていて「うーん…」と思ったところについてこれを紐解くとわかることがしばしばあり、「やっぱりどっちも使わないと駄目か…」というところに落ち着いています。個人的には、結構好きな本の一つです。読み返す度に新たな発見があります。

 最近第5版補訂版が発売されましたが、5版を持っている方はおそらく買い替えるほどまでは無いと思われます。本文に変更は基本的にないようです。




宇賀克也『行政法概説Ⅰ』[第5版]・『行政法概説Ⅱ』 [第4版]


行政法概説1 行政法総論 第5版
行政法概説2 行政救済法 第4版

評価:★★★★
使い方:通読 判例評釈としても

感想
 →受験生の中では塩野・行政法よりシェアは広いのではないかなと思う教科書です。僕は慶応ロー入試終わってからⅠを通読しました。基本書としてはこれを選んでおいてハズレ無いのかなと思います。
 内容は結構分厚いです。試験には直接関係ない、行政の制度的な内容がしっかり頁を割かれてたりします。後は、章立てがちょっと特殊かな。僕は分かりやすいかなと思いました。行為形式の説明(「行政行為」「行政計画」…)などの前に行政の制度的な説明が結構あります(「許可制度」「行政による規制」の仕組み、など)。ですので、章立てだけ見ていると欲しい情報が散らばっていたりします。通読した方がいいのではないかと。

 塩野・行政法と比べると以下の点で異なります。
 まず、レイアウトが読みやすいです。表紙を見れば一目瞭然(笑)。横組みで、章の始めに必ずpointとしてまとめが書かれています。判例・発展的な内容などはインデントを下げ、初学者は本文だけを読めば良いように工夫されています。そして、判例の引用がそこそこしっかりしています。最低限の判旨はそれだけでわかるようになっています。
 あと、重要判例(工場誘致政策と信頼保護・最判S56・1・27や租税法と信義則・最判S62・10・30など)の規範について要件立てて詳しく説明してあるなど、判例評釈については「へー」と思う記述が多いです。判例の理解を深めるには、この本を読むのが良いと思います。その意味で、ロースクールの授業に合っています。

 ただ分厚さからも分かるように、記述について簡潔さを求めるとちょっと冗長に感じられるところも。自説をはっきりと明示していない箇所もあり、きちんと結論らしいものにたどり着けないことがあります。基本的に、あるトピックにつき総論を述べた後類型別に判例を並べていくスタイルをとるので、手っ取り早く答えを求めて読んでも中々見つかりません(通読すると分かったりするのですが)。結論の見つけやすさは塩野に軍配があがりますね。
 
 総じて学習者のことをよく考えてある良書、という印象です。同著者の他の基本書としては『行政法』があります。これは宇賀先生が行政法を一冊にまとめたもの。未だに読んではいませんが、他の人のレビューを見ると良いものと悪いものが混在しており、もう概説を持っている僕としては特に買う必要性を感じませんでした。











橋本博之・櫻井敬子『行政法』[第4版]


行政法 第4版

評価:★★★★
使い方:通読・択一用

感想
 →いわゆる「サクハシ本」。「司法試験はこの一冊で充分」という評があります。

 
 本書は一冊で塩野・宇賀本の3分冊の内容をまとめており、受験生にはとても便利です。あと、記述も(難解な行政法の中では)わかりやすいと思います。
 特に総論部分と行政訴訟の訴訟要件論は一読の価値アリ。試験で聞かれる論点につき判例・通説に従った結論が簡潔な理由と共に書かれています。判例の引用も十分かなと思います。行政法について、そこまで内容に踏み込まず済ませたい、という人にはピッタリです。

 内容に関しては、塩野本の内容のうち、受験に必要な部分をわかりやすくまとめ直した、と言った方が正確かと思われます。著者は塩野門下のようで、項目ごとの叙述の順番は塩野本とほぼ同じところが多いです。焼き直しのような箇所もちらほら。
 もう一つ、行政組織法について最低限のことが書かれているのも○です。(塩野・宇賀は3巻にまとめられているので。)択一対策としては行政組織法も潰す必要がありますが、本書に書いてある内容だけでも必要最低限の理解は身につけることができるでしょう。

 欠点(めいたもの)としては、この一冊に必要なことが凝縮されているので、初学者が読んでも飲み込みきれないところでしょうか。本書は、「上級者がまとめとして用いる」ことにより適したテキストだと思います。行間が多くなってしまうのは、一冊本の性質上、ある程度は仕方のないことですね。

 司法試験ならこの本に書かれている内容で必要十分、という意見も、納得です。二色刷、太字、囲み記事などを駆使し、読みやすさを追求したレイアウトになっています。こんなところも学生向け。ちなみにこの著者お二人はご夫婦のようです。

 第4版が発売されました。改訂が頻繁ですね。精力的に活動されているということなので、とても良いことだと思います。


 
同著者『行政判例ノート 第2版』や『行政法のエッセンス』も評判が高い書籍です。 


行政判例ノート 第2版 
行政法のエッセンス













大橋洋一『行政法Ⅱ 現代行政救済論』



行政法2 現代行政救済論

評価:★★★
一言:一冊目に

感想
→最近出版された行政法の基本書です。著者は『行政法判例集 2 救済法』などの編者でおなじみの大橋先生。本書は工藤先生のブログで紹介されており、個人的に注目していたのですが、知人が持っており、借りて読みました。

 読んでみて、非常に驚きました。行政法という分野は初学者泣かせなところがあると思っていたのですが、これほど読みやすく、かつ分かりやすく行政法を解説してくれる基本書を僕は初めて読んだ気がします。
 各章の最初に本章で学ぶべきポイントが箇条書きにしてあるところは宇賀・行政法と変わらないのですが、それに加えて本書は図表を多用しており、かつ文字数がそれほど多くないため、読むのが驚くほど楽なのです。
 
 内容もとにかく分かりやすい。行政救済法については訴訟法的な視点が随所にあらわれ、それもまた初学者泣かせなわけですが、本書はその問題を図表によって相当程度クリアしています。直感的に分かりやすい。管轄など純訴訟法的な問題についてもしっかり説明されており、好感がもてました。
 なにより素晴らしいと感じたのは、リーディングケースとなる判例について個別法(建築基準法など)まで引用した上で、その個別法解釈を実際にやってみせてくれることです。
 行政法は他の法律のように基本となる法律がなく、結局個別法解釈になってしまうので、説明がどうしても抽象的になってしまいがちです。それが初学者泣かせの最たる原因だとは思うのですが、本書は個別法解釈の「作法」を示すことによって、その問題をある程度解決していると感じました。

 章立ても、救済方法としての「取消訴訟」→「取消訴訟が使えない場合の救済方法(当事者訴訟etc)」など、「行政救済法」という観点から説明されており、「今何を学んでいるのか」はっきり分かるのが◎です。

 デメリットを挙げるとすれば、図表を多用し(イメージとしては和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法』に近いです)、個別法解釈までしているため、内容が(塩野・宇賀・櫻井橋本に比べて)薄いことでしょうか。ページ数もそれほど多くないです。実際、取り上げている判例数も少なめで、論点についてもほとんど触れられていないものがあったりします。
 よって、学習が進んでくれば本書以外のものを参照せざるを得なくなるでしょう。しかし、それを補ってあまりあるわかりやすさです。

 結論として、一冊目にはこれを選ぶべし!と言い切っても良い内容でした。ただ、やはり内容が薄いことは避けられませんので、本書をメインに据える場合は何らかの対策をとる必要があるでしょう。




原田大樹『例解 行政法』



例解 行政法

評価:★★★☆
一言:新しいタイプのテキスト・使い方によっては心強い味方に?

感想
→元九州大学、現在は京都大学にいらっしゃる、原田大樹先生の著作です。行政法の世界にはもう一人『行政法要論』の原田尚彦先生がいらっしゃるため、これからは原田・行政法と言ってもどちらを指しているかわからなくなりますね。

 こちらの原田先生は、未だ准教授だということで、若手の先生です。本書も、従来のテキストとは随分色彩が異なり、最近の研究者の問題意識はこのようなところにあるのだろうか、と思ったりしています。
 本書は元々、原田先生の「講義案」という本がもとになっており(はしがき参照)、その「講義案」に加筆修正して本書が生まれたようです。

 この一冊で行政法の全範囲を(組織法まで含め)カバーしています。なんといっても本書の特徴は、「第1章 行政法総論の概要」「第2章 行政法の主要参照領域」として、「行政法各論」を大々的に取り入れたことにあるでしょう。
 我々が今まで「行政法」としてテキスト等で学んできたのは、様々な個別法にある程度共通する思考方法で、「行政法総論」と呼ぶべきものです。それに対して、実際に試験問題では個別法が登場し、私たちはその個別法をその場で読み解くことを要求されます。その個別法を、「行政法各論」と呼ぶとすれば、(刑法では総論の知識も各論で学ぶ個別の犯罪類型に応じて聞かれるように)実際に私たちが試験で戦うのは行政法各論の場だということになります。
 本書は、膨大な数がある「行政法各論」の中から、租税法・社会保障法・環境法・都市法の4領域をピックアップし、「第2部」として後半を割いて説明に充てています。

 ということで、本書は「第1部」が今までのテキスト等と共通する箇所で(第1部の中に行政実体法と行政救済法が含まれています)、「第2部」はそれぞれの個別法領域特有の制度、考え方の説明になっています。
 この第2部、ただの制度説明かよと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、行政法の様々な判例は個別法の仕組み、その背後にある制度を当然の前提としているので、背後にある行政制度の理解はそのまま判例の理解に直結します。都市法の判例などはかなり複雑なことも多いので、この第2部は難解な行政法判例を理解するのに非常に役に立つのではないか、と個人的には思っているところです。


 本書は特段厚い本ではないのに、全範囲を一通り説明し、かつ、後半を個別法の解説に充てているので、当然ですが、行政法総論の記述はとても薄いです。この一冊では間違いなく足りないと思います。
 しかし、記述の仕方が絶妙で、本当に必要なことのみを、端的に説明しています。本書を読みながら講義を聴いたり、ある程度学習を終えた人がまとめ用として用いるのには凄く良いと思います。元々本書は「講義案」ですから、どんどん本書に書き込むなりして補充する使い方もいいのかなと思っています。

 記述が薄い中でも、本当に重要な箇所(行政行為や処分性、原告適格など)はきちんと頁を割いて説明がされており、答案にそのまま使えるくらい、端的でわかりやすいです。今までの本と若干違った視点から説明がなされている感じを受けます。今持っているテキストに不満を感じている方は、もしかしたら、本書によって蒙を啓かれるかもしれません。

 あと、本書を読む上で気をつける(?)べきは、今までのテキスト等で書いてあった説明や判例の紹介が、第1部と第2部に分かれて書かれていることがあることです。従来行政法総論に組み込まれて説明されていたことが、個別法領域を切り離した結果、個別法の箇所で詳しく説明されていることがあるということです。(例えば、医療法に基づく勧告の処分性を認めた最判平成17年7月15日の説明は、第1部の処分性の箇所と、第2部の社会保障法の箇所に分かれて説明があります。)
 ですから、とある事項を探したいときは、その事項についての説明が複数ある可能性が高いので、索引をしっかり使うことが推奨されます。(「講義案」段階では巻末索引が無く、苦労しました。)

 このように検索の手間は多少煩雑ですが、本書を読んでいると、「行政法」の判例とひとくくりにしていた判例が、「租税法」の判例、「社会保障法」の判例、などとグループ化され、今まで以上に個別法を意識するようになるかな、と思っています。そういう意識が持てるようになることは、本書のメリットの一つだと思います。

 他の本と異なる部分が多いため、説明が長くなってしまいました。本書はこのような作りのため、使いどころが多少難しいですが、試験での実践を考えると、上手く本書を使うことで行政法が得意になるのかなと妄想しています。この説明でどれだけ本書の魅力を伝えられたかわかりませんが、興味を持たれた方は、(何分特徴的な本ですので)実際に手にとって読んでみることをお勧めします。




山本隆司「判例から探究する行政法」(法学教室連載331~366・全30回)


評価:★★☆
使い方:深く判例を学びたい方へ

感想
 →東京大学山本隆司教授の手による行政法の連載。処分性と国家賠償のところだけを読みました。
 内容は か な り 高度です。重要な最高裁判例(30判例)を緻密に分析していくスタイルで、最高裁内部で意見が割れているところ(たとえば、藤田補足意見と調査官解説で対立している「処分性を拡張した際の違法性の承継」など)にまで踏み入って検討を加えるなど、全然一筋縄ではいかない内容が詰まっています。山本先生ご自身が認めている通り(連載では最終回、書籍では「はじめに」)、内容もさることながら文章自体が難しいことも、この連載を重くしているのかもしれません。
 
 ただ、しっかりと時間をかけて読み込めば深い理解に到達できることは間違いないと思います。処分性の拡張要件についてはこの連載に随分と助けられました。近時の判例は「処分性」の定義(最判昭和39年10月29日)を引かずに判断していますが、その内容の理解についてはこの連載がなければ今より混乱していたことと思います。

この連載は書籍化されました。


判例から探究する行政法





曽和俊文『行政法総論を学ぶ』



行政法総論を学ぶ (法学教室ライブラリィ)

評価:★★★★
一言:わかりやすく、面白い

感想
→『事例研究』の編者、曽和教授による法学教室連載をまとめたものです。タイトル通り、一冊まるまる、行政法総論の解説に費やされています。行政救済法は、エッセンスのみ、巻末に短くまとまっています。

 本書の特徴は、一般的には抽象的で、わかりにくいとされている行政法総論を、数々の具体例・判例を引き合いに出しながら、できる限り事例に即して、実際的に説明しようとしているところにあります。そして、その試みは成功していると思います。

 有名な判例をベースにした長文の事例を「ケース」として用い、ケースメソッド的に解説がなされるので、本書を読むことで、複雑な行政法の有名判例もついでに理解できるのが良いですね。司法試験では救済法のみならず、行政法総論分野からの出題も半分以上の配点があり、これからは行政法総論ができるかどうかが勝負だと(勝手に)思っています。
 救済法分野については最近よい本が増えてきており、各予備校も対応してきているため、これから受験生の中で差をつけるのであれば、やはり行政法総論になるのではないでしょうか。本書は、行政法総論の理解を、実践的に深めてくれるため、是非読んでみていただきたい一冊です。