先日、我妻榮『法律における理窟と人情』を読み、今日は同じく我妻榮『債権総論(民法講義Ⅳ)』『債権各論上(民法講義Ⅴ1)』をパラ読みしました。


我妻榮博士(余談ですが、法律系の人間は学者のことをよく「~先生」と呼びます。これは脈々と受け継がれている伝統のようなもの(笑)のようで、僕も意識せずに使っていたのですが、東京大学の某先生から一度ゼミの中で注意を受けまして、「実際に教わったこともない人に対して先生と呼ぶのはどうか」とバッサリ切られてしまったので、以来僕もむやみに「~先生」と呼ぶのは避け、「教授」「博士」などで呼ぶようにしています笑)といえば、戦前から戦後にかけて日本の民法学ひいては法律学を率いた、まさに第一人者です。

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これを見れば、彼の凄さの片鱗がわかるはずです(笑)。判例百選編集を全部彼がやっているという…なんだ彼は神様かと思う事実ですな。

『法律における理窟と人情』は、そんな彼が戦後、法学部生を対象に行った、「啓蒙」のための講演を書き下ろしたモノです。

今から実に60年前の講演ですが、現在もなおその内容は輝きを失っておりませんでした。


「理窟」とは理論的一貫性を指し、「人情」とは結果の具体的妥当性を指します。
法律は、理論的に一貫していなければならない(十分な予測可能性を保証しなければならない)ものですが、同時に、「杓子定規」になってはならず、個々の場合に即した妥当な解決を導かねばなりません。

これら二つの要請は、ともすると真逆のことを言っており、これらを同時に満たすことは大変に困難を伴うものです。しかし、法律というルールを適用運用していくには、この二つの要請は追い求めねばならないものです。

この、当たり前のように思えることを、沢山の具体例を使いつつ、平易に解き明かしていました。
読んでいてとても面白かったです。

本の中の一節に(うろ覚えですが)、「常識的に考えて導き出される結論と、法的にあらゆる手段を尽くして考え抜いた結果導かれた結論が同じであることをもって、法律を無駄なものだと切って捨ててはならない。それはむしろ理想なのである。法律を適用して得られた結論が常識に合致していることこそを、我々は目指さねばならず、そのような解釈に全力を注がねばならない」といった趣旨の事が書いてあり、まことにその通りだと思いました。
我々は、ともすれば法律的に考えて得られた結論が常識と違ったときに専門性を感じてしまいがちですが、それは全くの誤りである、ということを気づかせてくれただけでもこの本を読んだ甲斐がありました。

そのために、まずは結果の妥当性ばかり追い求めるより、理論的一貫性を学ぶべきだ、とも書いてありました。最近、僕は結構結論ありきで考えていた節があったので、注意しなければなあと思った次第です。


そして、我妻民法学は往々にして「理論と結果の妥当性との調和に最も良く成功している」「結論の穏当さゆえに実務にも広く採用された」との評価を下されますが、この評価も、彼の上記のような姿勢の表れなのだろうなあと思いました。


といったところで、今日彼の教科書である『民法講義』シリーズをパラパラめくってみました。

さすが戦後すぐの出版だけあって旧字体が使ってあり、ちょっと読みにくかったですが、とても分かりやすかったです。驚きました。確かに議論が古いところもあり、細かいところも多々ありましたが、現在の教科書が前提としているまさに「通説」を、背景思想から明らかにしてあり(現在の通説はほぼ我妻説であることを考えれば当然ですが)、もっと早く読めば良かった、というのが正直なところです。
債権総論の多数当事者関係、そして契約総論を読みましたが、記述のバランスが驚くほどとれているなと思いました。めっちゃわかりやすいやん。実務家の方々が未だに参照されているのも納得です。(判例と違う結論を採られる箇所では判例の解説が驚くほど薄いなどいくつか欠点めいたところもありましたが)これは近いうちに全巻読破せねばなるまいと思いました(笑)。


諸手を挙げて我妻博士の考えに盲従するわけではなく、まず議論の出発点として彼の理論を理解してから、現在の判例学説をその上にのせることがおそらく一番なのだろうなと思います。

実際、彼の契約総論を読んだ後に潮見佳男京大教授(おそらく現在の受験生シェアトップ)の契約総論を読みましたが、我妻説と異なる、あるいはタッチの違う部分のみを読めば良かったので、とても早く読み終わることが出来ました。 これはよい学習方法を見つけた。大変に時間がかかりますけれども。

少なくとも民法くらいはこういう学習をしたいものだなあ、と思った一日でした。 

法律における理窟と人情
法律における理窟と人情

新訂 債権総論 (民法講義IV)
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債権各論 上巻 (民法講義 5-1)
債権各論 上巻 (民法講義 5-1)